国産AI「Sarashina」を試した 日本語に強い無料ベータ版、仕事で使う前に確かめたいこと

10月13日、ソフトバンクの子会社のSB Intuitionsが、国産の生成AI「Sarashina(さらしな)」を誰でも無料で試せるベータ版を公開しました。Googleアカウントでログインするだけで、ブラウザのチャットと、開発者向けのAPIの両方が使えます。
私もアカウントを作って、さっそく試してみました。結論から言うと、日本語の自然さと返事の速さは、触ってすぐに分かるレベルです。一方で、無料のベータ版には、仕事で使う前に必ず知っておきたい条件があります。入力した内容がAIの学習に使われる場合があり、それを断る設定がないことです。「国産だから会社のデータを入れても安心」とは、少なくとも今の無料版では言えません。
Sarashinaは、日本語を重点的に学んだ国産のAI
SarashinaはSB Intuitionsが日本語のデータを重点的に学習させて、ゼロから開発しているAIです(公式サイト)。今回のベータ版では、最新の「Sarashina3」シリーズのうち、用途の違う6つのモデルを使えます(プレスリリース、APIドキュメント)。
| モデル | 何に使うか |
|---|---|
| Sarashina3 mini | 標準の対話モデル。文章作成や会話、外部のツールを呼び出す使い方にも対応 |
| Sarashina3 nano | 軽くて速いモデル。抽出や要約、分類を大量にこなす用途向け |
| Sarashina3 embedding | 文章を検索しやすい形に変換する。社内マニュアルやよくある質問を検索して答えさせる仕組み(RAG)の部品 |
| Sarashina3 rerank | 検索結果を、質問との関連が高い順に並べ直す。問い合わせへの回答の精度を上げる用途 |
| Sarashina3 guard | 文章が安全かどうかを判定する。文章は生成しない。AIの入出力のチェック役 |
| Sarashina3 translate | 日本語と英語の翻訳に特化したモデル |
チャットで話せるのはminiで、一度に読める長さは12万8千トークンです。公式は、じっくり考えてから答える「長考」のモデルではないことと、応答の速さを特徴として挙げています。
公式サイトがとくに強調しているのは、日本語を少ないトークンで扱える点です。トークンはAIが文章を区切って数える単位で、料金がトークン単位で決まるAPIなら、同じ文章を少ないトークンで表せるほど費用を抑えやすくなります。公式サイトの比較では、日本語版Wikipediaの全文が、米国のモデルA・Bでは14億・12億トークンになるのに対し、Sarashina3では9.5億トークンでした。
実際に使ってみた 速さと日本語は本物、細部はまだベータ
チャットの画面はシンプルで、左に「新しいチャット」と「翻訳」があるだけです。5つほど頼んでみました。
まず自己紹介。 何というAIかを聞くと、「SB Intuitions株式会社が開発したAIアシスタント『Sarashina mini』」と名乗りました。2024年以降の出来事については知識が限られる、とのこと。知識がいつまでのものかを詳しく聞くと、「控えさせていただきます」とかわされました。
次に、ウェブ検索。 「SB Intuitionsが10月13日に発表したSarashinaサービスについて、ウェブで調べて要点を3つ」と頼むと、「Research」という検索の表示が出たあと、15秒ほどで答えが返ってきました。6つのモデル名、APIとチャットの公開、利用者のフィードバックを開発に生かす方針。中身はプレスリリースと一致していて、出典としてPR TIMESと公式サイトを挙げ、参考リンクも10件以上並びました。

仕事の文章も頼んでみました。 「部品の入荷遅れで納期が1週間遅れることを、取引先に伝えるお詫びメールを200字程度で」と頼むと、件名から署名まで、自然な敬語のメールがすぐに出てきました。ただ、署名の部分だけが大きな見出しの書式で表示されたり、新しい納期を書かずに「改めてご連絡します」で終わっていたりと、そのまま送れる完成度ではありません。下書きとしては十分ですが、取引先が一番知りたい新しい納期は、送る前に人が書き足す必要があります。
計算と言葉のニュアンス。 「税込33,000円の商品の税抜価格と、軽減税率8%なら税込いくらか」には、税抜30,000円、税込32,400円と正しく答え、数式もきれいに表示しました。「『忖度』と『配慮』の違いを、会議の場面を例に」という質問にも、上司の独り言を察して先回りするのが忖度、発言しにくい新人に声をかけるのが配慮、と分かりやすい例で答えています。最後に「どちらも重要ですが、過度な『忖度』は本音の議論を妨げる可能性があります。一方、『配慮』はチームの円滑な運営に不可欠」と補足していて、忖度を単純に悪いものとして片付けていないところも含めて、少なくともこの質問では、日本語のニュアンスをきちんと説明できていました。
翻訳。 翻訳の画面では、一度に1,500字まで入れられます。取引先へのメールの定型文を英語にすると、自然なビジネス英語になりました。

全体を通して、返事はとにかく速く感じました。Xでも、ある利用者が等速の画面録画を添えて、その速さに驚いていました。
無料版では、入力した内容が学習に使われる前提で扱う
チャット画面の下には、いつも「個人情報は入力しないでください。モデル改善のため、利用規約に明記されている通り、入出力データを学習に使用します」と表示されています。利用規約を読むと、SB Intuitionsは、有料・無料を問わず、入力と出力をモデルの学習や新しいサービスの開発に使えるとしています。学習を断る設定(オプトアウト)は有料プランだけで、今の無料ベータ版にはありません。しかも、学習に使った結果(モデルに反映された分)を、あとから消す義務は負わないと書かれています。全部の入力が必ず学習に使われるとは限りませんが、断る手段がない以上、使われる前提で扱うのが安全です。
規約には、ほかにも仕事で使う人が知っておきたい項目があります。
- 個人情報の入力は禁止。 本人や第三者を特定できる情報を入れること自体が、禁止行為に挙げられています
- 専門的な助言として使うのは禁止。 医学、法律、金融などの専門分野の助言として回答を使ってはいけない、とあります
- APIにはモデルごとの回数制限がある。 1分あたりのリクエストは、mini・guard・translateが6回、nano・embedding・rerankが60回までです(レート制限)。Xでは、翻訳の自作ツールで使ってみた利用者から「レート制限が厳しいのでだいぶ時間かかる」という声もありました
個人向けのチャット同士で比べると、ChatGPTやClaudeの個人向けプランでも、設定によっては入力が学習に使われます(OpenAIの説明、Anthropicの説明、当ブログの早見表)。ただ、多くのサービスには学習を断る設定があります。Sarashinaの無料版にはそれがない、という点は押さえておく必要があります。
「国産」という言葉の受け取り方にも注意が要ります。SB Intuitionsは会社の強みとして「国内のデータセンターでの厳格なデータ管理」を挙げていますが、無料ベータ版の入力がどこで処理・保存されるかは、プレスリリース、利用規約、プライバシーポリシーのどれからも読み取れませんでした。プライバシーポリシーにはむしろ、クラウドサービスを使っているため、海外で個人データを扱う場合がある、と書かれています(これはアカウントの情報などの個人データについての記述で、チャットの入力に限った説明ではありません)。「ソブリン性を備えたクラウド」として打ち出しているのは、法人向けのクラウド「Cloud PF Type A」でSarashinaを使う場合です。無料ベータ版のデータの扱いは、利用規約とプライバシーポリシーで確かめる必要があります。国産であることと、データが自分の望む形で扱われることは、別の話です。
考察 国産AIに求められるのは、性能よりデータの選択肢
ここまでが公式の発表と規約、そして私が試した結果です。ここから先は私の読みになります。
触ってみて、日本語の自然さと速さは、無料で試せるAIとしては十分な水準だと感じました。トークンの効率がよいので、APIで大量の日本語を処理する用途では、費用の面でも有利になりうると思います。RAGの部品や安全判定のモデルが最初からそろっているのも、社内の仕組みに組み込むことを考える会社には便利です。
ただ、会社がAIを選ぶときの決め手は、性能だけではありません。今回の無料版で分かったのは、学習を断れないことと、個人情報を入れてはいけないこと。まだ分からないのは、入力がどこで処理・保存されるか、有料プランでどこまで条件を選べるかです。AI導入を支援する立場から見ても、会社が最初に確かめるべきなのは、この「まだ分からない」側だと思います。国産AIの価値が本当に発揮されるのは、日本の会社がこうした条件を自分で選べるようになったときではないでしょうか。
その意味で、次に見ておきたい目印は2つあると思います。1つは、学習を断れる有料プランが、いつ、どんな料金で出るか。もう1つは、法人向けのCloud PF Type Aでの提供条件が、中小企業にも手の届く形で示されるか。この2つが出そろえば、仕事に組み込めるかを判断する材料が大きく増えると見ています。もちろん、実際に組み込むには、保存期間やサポート、障害時の対応といった契約の条件も確かめる必要があります。
最後に 試すなら、社外に出してよい文章から
Sarashinaは、Googleアカウントがあれば今日から無料で試せます。日本語の自然さや速さを体験するには、十分な環境です。
試すときは、公開済みで、他社の権利や社外秘を含まない文章、たとえば自社のプレスリリースの要約や、一般的なメールの言い回しから始めてください。顧客の名前、社内の数字、個人情報、未公開の資料は入れない。そして、出てきた答えは自分で見直す。この範囲なら、国産AIの今の実力を、自分の目で確かめられます。