MetaのAIエージェント「Muse」とは 仕事で使う前にモデル学習はOFFに

Metaが10月23日、パーソナルAIエージェント「Muse」の日本での提供を始めました。9月に米国とカナダで始まったサービスで、北米以外では日本が初めての提供先です。スマホのアプリとWebで使え、基本的な機能は無料です。
ただし、最初に知っておきたいことが一つあります。Museとのやり取りをMetaのAIの学習に使う設定は、最初からオンになっています。つないだメールや予定の中身も、タスクに使えば「やり取り」に含まれます。使わせたくない方は、始めたらすぐに設定でオフにしてください(手順は後で書きます)。
同じ「頼んだ仕事を代わりに進めるAI」には、OpenAIのdotsやSpaceXAIのGrok Botがあります。ただ、どちらも続けて使うには有料プランが前提で(Grok Botには利用量で区切った無料トライアルがあります)、AnthropicのClaude Duetはまだ日本では使えません。FacebookやInstagramと同じMetaアカウントで、無料で始められるMuseは、普段AIを使っていない人にまで届く最初のエージェントになるかもしれません。だからこそ、仕事のメールやカレンダーをつなぐ前に、決めておくことがあります。
ちなみに、提供が始まった当日には、MetaでAI部門を率いるAlexandr Wang氏が、『となりのトトロ』のトトロをMuseのキャラクターに置き換えた動画をXに投稿し、日本のユーザーから著作権の面で批判を浴びました。その投稿は、今は見られなくなっています。日本上陸を祝うつもりだったのでしょうが、メルカリやチケットぴあとの連携を進めると発表して、日本向けに力を入れているところを見せた初日に、何をやっているんだか、と思ったのも正直なところです。
Museは、メッセージで頼むと自分専用のクラウドPCで作業を進めるエージェント
使い方は、人にメッセージを送るのとほとんど同じです。やってほしいことを書くと、Museが計画を立て、ブラウザを開いたりフォームに入力したりしながら作業を進めます。9月の発表によると、メールの送信や旅行の予約のような用事だけでなく、目標を伝えれば、計画づくりから進捗の確認まで付き合ってくれる設計です。
作業の場所は、利用者ごとに用意されるクラウド上のコンピューター(Muse Secure VM)です。こちらがアプリを閉じても作業は続き、状況が変わったときや、承認が必要になったときに通知が来ます。
安全面の仕組みは、発表に次のように書かれています。
- インターネットへの出入りを別のエージェントが見張る: Museとは切り離された「Sentinel(センチネル)」が、Museのインターネットへのアクセスを承認します
- パスワードと支払い方法はMuseから見えない: 共有したログイン情報は別の保管場所に置かれ、Museは中身を見ずに使います。支払いはStripeのLinkが使い捨てのカード番号を発行します
- 大事な操作の前には本人に確認する: メールの送信や商品の購入の前に確認が入り、これまでの操作と、これからやる予定の操作を履歴で見られます
- つなぐ範囲は自分で選ぶ: たとえばメールなら、読むだけにするか、代わりに送信まで許すかを選べます
Museとの会話や、この専用コンピューターの中のデータは、Metaの広告システムと共有しないとされています。
始め方はMetaアカウントだけ。最初に学習設定とつなぐ範囲を決める
ヘルプによると、登録に使うのはMetaアカウントです。持っていなければ、FacebookかInstagramのアカウント、またはメールアドレスか電話番号で作れます。登録の入口はmuse.ai/joinです。iPhone、Androidのアプリと、Webのmuse.aiから使えて、日本語のmuse.aiのページにはMac用のアプリの案内もあります。利用規約上、18歳未満は使えません。
初めてログインすると、「注意点」の画面が出ます。承認すればメッセージの送信や購入までできること、間違えたり予期しない動きをしたりすることがあるので確認してほしいこと、アプリを閉じても動き続けること。この3つを読んで「開始する」を押すと、利用規約に同意したことになります。その後、Museを何と呼ぶかを聞かれ、まずGmailをつないでみないかと勧められます。
料金は、使える量に上限のある無料枠が基本です。上限に達したら、上限が戻るのを待つか、有料プランに切り替えます。有料プランは、週ごとの利用枠が増えるPower(月20ドル)とMaximum(月100ドル)の2つで、ヘルプには、内容や提供状況は地域とアカウントによって違い、登録前の画面に表示すると書かれています。日本円での価格は、登録画面で確かめてください。
Xでは招待コードを貼り合う投稿が目立っています。Metaのヘルプや発表には説明が見当たりませんでしたが、アプリの「友達を招待」の画面に条件が書かれていました。招待された人が参加してから48時間以内に「設定」でコードを入れると、招待した人とされた人の両方に10億のMuseトークンが付く、というものです。1つのコードは30回まで使えます。有料のPowerプランの利用枠が週5億トークンなので、その2週間分にあたります。始めたばかりなら、知り合いのコードを48時間以内に入れておくと得です。
参考までに、私(監修の寺師)のコードは R50YN4 です(「R・ゴ・ゼロ・Y・N・ヨン」)。実際に使えますが、載せたのは仕組みを見てもらうためで、コードを広めるのが目的ではありません。使わなくてまったくかまいませんが、使ってもらってもかまいません笑。
登録したら、最初に2つのことを決めておくのがおすすめです。
一つは、冒頭で触れた学習に使わせるかどうかです。使わせたくなければ、「設定」から「データコントロール」を開き、「AIモデルの改善にご協力ください」をオフにします。変更は過去のやり取りにも適用されます。
もう一つは、何をつなぎ、どこまで許すかです。メールやカレンダーをつなぐと便利になる分、Museが読める範囲も広がるので、個人で使うサービスは、読むだけの権限を選べるならまずはそこから始めるのが無難です(会社のメールについては後の章で触れます)。送信まで任せるかは、使い方が見えてから決めても遅くありません。
日本で今つながるのはGmail・カレンダー・Instagram。メルカリなどはこれから
Museが外のサービスとつながる仕組みは「コネクター」と呼ばれます。日本向けの発表で挙がっているのは、次のサービスです。
| 状況 | サービス |
|---|---|
| 使える | Gmail、Googleカレンダー、Instagram、Stripe、Shopify、Trip.com、Agoda、Klook など |
| 連携を進めている | メルカリ、マネーフォワード ME、チケットぴあ |
メルカリなどの国内サービスは「連携を進めて参ります」という書き方で、まだ使える段階ではありません。
Instagramは、投稿の代行も頼めるようです。私の個人のアカウントをつないで聞いてみると(実際の投稿まではしていません)、Museの答えは次のとおりでした。フィード(写真1枚、リール、複数枚)とストーリーズに投稿できる。写真やキャプションのイメージを渡せば下書きを作って見せ、承認をもらってから投稿する。いいね、コメントへの返信、フォロー、投稿の削除やキャプションの編集は、この連携ではできない。見落としやすいのは、権限の初期設定です。Instagramをつないだ直後の設定画面は、次のようになっていました。
| 種類 | 項目 | 初期設定 |
|---|---|---|
| 読み取り | アルゴリズム、アナリティクス、コンテンツ、フォロワー・コメント・「いいね!」など | すべて「許可する」 |
| 書き込みと削除 | 投稿内容、プロフィールを編集 | 「リクエストする」 |
| 書き込みと削除 | アルゴリズムを編集、保存済みの投稿を管理 | 「許可する」 |
| バックグラウンド | バックグラウンド同期 | 「許可する」 |
投稿やプロフィールの変更は、その都度許可を求める設定です。一方で、おすすめの表示に関わる「アルゴリズムを編集」や保存済みの投稿の管理は、書き込みでも最初から「許可する」になっています。どれも項目ごとに切り替えられるので、つないだら一度この画面を開いて、確認なしで動いてよいものかどうかを見ておくと安心です。
無料のまま4つ試すと、調べ物と下書きの形はできた。返事は数分待つ
私たちも、10月24日に無料のアカウントで試してみました。メールやカレンダーはつながず、Webのmuse.aiから4つ頼んでいます。
| 頼んだこと | 結果 |
|---|---|
| 11月の平日に京都で1泊。紅葉を見たい。予約はせず提案まで | 約7分で返事。日程の候補2つ(ボタンで選べる)、宿の候補4つ、2日間の回り方、拝観料や食費を足した予算の内訳まで出た |
| 京都の返事を待たずに「非エンジニア10人向け、1時間の生成AI研修のアジェンダを表で」 | 京都の提案と同じ返事の中に、時間割の表で返ってきた。スライド用の要約も作れると提案 |
| 今日の17時に「京都旅行の日程を決める」とリマインド | 約1分で設定。「日時指定済みタスク」として登録された |
| test@example.com に打ち合わせのお礼メールを送って | 下書きを示したうえで、「送るにはGmailの連携が必要。送信前に文面の確認も必要」と返してきた。連携はしていないので、送信はされていない |
いちばん感心したのは、作業の中身が全部見えることです。画面右の履歴を開くと、旅行の計画用の手順書を読み、曜日を確かめ、紅葉の見頃と拝観料と宿のエリアをWeb検索し、自分用のメモを更新した、という一手一手が並んでいます。待っている間に何をしているのかがわかるので、7分でもそれほど長く感じません。
気になった点もあります。Webの画面では、返事ができあがっても自動で表示されず、ページを再読み込みして初めて出てくることが2回ありました。作業中のまま止まったように見えるので、慣れないうちは戸惑うと思います。また、京都の提案には、ライトアップの期間や拝観料、宿泊税の金額まで具体的に書かれていましたが、私たちはそのすべてを確かめてはいません。予約する前には、お寺や宿の公式ページで確かめる必要があります。
個人なら「面倒な裏方仕事」、仕事なら「読んで、まとめる」から
公式の例とXで報告されている使い方を、個人と仕事に分けるとこうなります。
個人の用事
- 旅行の計画と下調べ。行き先と予算を伝えて、宿や回り方の案を出してもらう
- Instagramで保存したレシピから、買い物リストや献立を作る
- 使っていないサブスクの洗い出しや、メルマガの購読解除
- 免許や書類の期限、予定のリマインダー
仕事の用事
- InstagramやThreadsの自分のアカウントの分析。Metaのサービスなので、つなぐ手間が少ないと評価する声が目立ちます
- 投稿や発信の1か月分の計画づくり
- 資料、表、画像などのたたき台づくり。作ったファイルは「ライブラリ」に保存されます
仕事の側に挙げたのは、どれも顧客や取引先に送ったり、一般に公開したりしない作業です(ただし、資料や投稿の中身をMuseに渡すこと自体は、どの作業でも起きます)。送る、買う、公開するといった外に出ていく操作は、Museの側でも必ず承認を求められますが、会社としても誰が確認するかを決めてから任せたほうが無難だと思います。
個人と仕事の違いは、会社が管理できるかどうか
Museは、個人のMetaアカウントで使うサービスです。仕事に使うときに考えておきたいのは、ここです。
一つめは、会社としてまとめて管理する仕組みが、公開情報からは見当たらないことです。米国とカナダには、小さな会社向けにつなげるサービスやスキルを増やした「Muse for Small Business」がありますが、そのページのよくある質問には、利用できるのは米国とカナダと書かれています。しかもこれは仕事向けの機能を足したもので、会社が社員の使い方を管理する仕組みは書かれていません。社員がそれぞれ個人のアカウントでMuseに業務のメールやカレンダーをつないだとき、何がつながっているかを会社の側でまとめて把握したり外したりする方法は、公開されている情報からは確認できませんでした。
二つめは、つないだサービスの扱いは利用者の責任だということです。利用規約には、つないだサービスの規約を守ることや、データを共有するリスクを理解することは、利用者が単独で責任を負うと書かれています。会社のGoogle Workspaceや、取引先とのやり取りを個人のMuseに渡してよいかは、社内のルールで先に決めておく必要があります。
相手への伝え方も、決めておきたいことの一つです。規約は、法律でAIだと明かすよう求められる場面で、AIが代わりにやり取りしていることを隠すのを禁じています。そうした場面では、明かすのが前提です。それ以外の場面について、ヘルプは、Museで作ったメールや資料を人に送るときに、AIが作ったと書き添えるよう頼めると案内しています。取引先へのメールをMuseに書かせるなら、どこまで書き添えるかを社内で揃えておくと迷いません。どの場面で開示が必要かがはっきりしないときは、専門家に確かめてください。
なお、Museは間違えることもあります。ヘルプ自身が、正しくないことや予期しない行動をとることがあるので、注意深く見て、必要なら止めてほしいと書いています。
最後に、仕事で試すなら決めておくこと
無料で、普段のMetaアカウントで、メッセージを送るだけ。始めるまでの手軽さでは、今あるエージェントの中でいちばんだと思います。その手軽さのまま、仕事のメールまでつないでしまう人が出てくることのほうが、筆者は気になります。
私たちがお客様と業務の一部をAIに任せる設計をするときも、最初に決めるのは「どのアカウントで、どこまでやらせるか」です。会社でMuseを試すなら、次の3つを先に決めておくと安心です。
- 会社のメールや取引先とのやり取りは、個人のMuseにつながない
- 試すのは、自社のInstagramの分析のような、読んでまとめる作業から始める
- 送信、購入、公開の承認ボタンを押すのは誰か、押す前に何を確かめるかを決めておく
この先の目印は2つあると思います。メルカリやマネーフォワード MEとの連携が実際に使えるようになるか。それから、管理者が社員のMuseの接続をまとめて外したり、退職者の利用を止めたりできる仕組みが出てくるか。仕事向けのつなぎ先が増えるだけでは、会社として安心して入れられるようにはなりません。後者が出てきたときが、Museが「個人が試すもの」から「会社が入れるもの」に変わるときではないでしょうか。