Gemini エージェントとは 会社の仕事を幅広く任せるGoogleのAI、誰がいつ使えるか

Google Cloudが米国時間10月8日(日本時間9日未明)、イベント「Gemini at Work 2026」で、会社向けのAIエージェント「Gemini エージェント」(英語ではGemini agent)を発表しました。Google Cloudのトーマス・クリアンCEOは、基調講演で「業務のための新しいひとつの汎用的なエージェント」と紹介しています。
発表を読むと、Gmailやドキュメントの中でGeminiが前より自由に動けるようになった話にも見えます。ただ、中身はもう一歩先にありました。目玉は、自分のメールアドレスとカレンダーを持ち、チームの一員として働く「コワーカー エージェント」を作れることです。AIをツールとして使うのではなく、AIの社員を雇って管理する。その形をGoogleが自社の仕事のツールの中に組み込んできた、というのが今回の発表の芯だと思います。ただし、使えるのはまだ一部の企業です。
Gemini エージェントは、会社向けの「幅広く任せられる1人目」
Gemini エージェントは、会社向けの「Gemini Enterprise」の中で使うエージェントです。製品ページの名前は「Gemini for business」になっていました。
できることは、質問への回答、資料作りのような知的な作業、画像やメディアの作成、コードを書いて動かすところまで。それを1つの入力欄から頼めます。公式は「指示ではなく目標を与える」と表現していて、結果を任せて、仕上がったものを受け取る使い方を想定しています。チャットで話しかけるだけでなく、仕事を割り当てたり、日時を決めて動かしたり、何かが起きたときに動かしたりもできる、という設計です。
個人向けには、Googleはすでに「Gemini Spark」という常駐型のエージェントを出しています(7月の時点ではUltraプラン限定)。Sparkが個人の生活と仕事を手伝う秘書だとすると、Gemini エージェントは会社のデータと権限の中で動く社員です。同じ「Gemini」の名前でも、対象と管理の仕組みが違います。
クラウドで動き続け、サブエージェントとコワーカー エージェントを従える
基調講演で示された設計の考え方は、次の6つです。このうち、いくつかの機能はまだ一部の顧客向けの早期アクセスです(次の章で詳しく書きます)。
| 考え方 | 中身 |
|---|---|
| 1つのエージェント | 会話、自律的な作業、コード生成を同じ窓口でこなす |
| どこからでも使える | Web、iOS・Android、Windows・Mac、コマンドライン、Google Workspace、Microsoft 365、Slack。画面を持たずに他のアプリへ組み込むこともできる(スマホ版とデスクトップ版は早期アクセス) |
| 動き続ける | クラウドで動くので、どの端末から使っても記憶は1つ。何時間、何日もかかる仕事も、PCを閉じたあと続く(複数の手順の仕事をバックグラウンドで任せる機能は早期アクセス) |
| 複数のエージェントを束ねる | 仕事に合わせてサブエージェントを作り、並行や順番の作業をまとめる |
| 文脈を知っている | 使うツール、データ、仕事の履歴を最初から知っていて、やり取りから覚えていく |
| モデルを選べる | 仕事ごとに合うモデルで動かす。発表ではGeminiとAnthropicのClaude、今後は他社やオープンなモデルも(他社モデルの選択は早期アクセスで、製品ページのよくある質問では、現在はGeminiのモデルとされている) |
覚える仕組みは4種類あるそうです。目の前の作業の記憶、文書や人とのやり取りから組み立てる知識、仕事の進め方の記憶(自分で書いたスキルも含む)、過去にやったことの記憶。ここでいう「覚える」は、会社や個人ごとに保持される記憶や文脈の話です。製品ページは、プロンプトや出力などの顧客のデータを、Googleや他社のモデルの学習に使わないと明記しています。
つながる先も、Googleのサービスだけではありません。Confluence、Microsoft Office、Teams、Slack、Git、Jira、Salesforce、ServiceNow、BigQuery、Snowflakeのほか、手元のPCのファイルや、MCP(AIと外部のツールをつなぐ共通の仕組み)のサーバーにもつなげます。社内で作ったツールやスキル(仕事の手順をまとめた指示書)を登録して、全社で共有する仕組みもあります。
Workspaceの中では、3通りの働き方をする
Gmail、ドライブ、ドキュメント、スライド、スプレッドシート、Chat、カレンダーの中では、次の3通りで働きます。
- パーソナル アシスタント: 「来週、いつもの地域イベントの担当チームと会議を」と頼むと、名前を挙げなくても、チャットのメンバーや前回のやり取りから相手を割り出し、予定を確かめて日程調整のメールを送る
- 任せられる仕事の提案: 上司から「最新の進捗をスライドで」とメールが来ると、それを任せられる仕事と見て、1クリックでGeminiに渡せるようにする
- チームメンバー: 役割を説明すると、コワーカー エージェントができる
いちばん新しいのは3つ目です。コワーカー エージェントは、自分のGoogle Workspaceのアカウント(メールアドレス、カレンダー、ドライブ)を持ち、社内の名簿にも載ります。チャットのスペースに加えたり、@メンションで呼んだりでき、ドキュメントのコメントで頼めば、修正を提案してコメントに返信し、変更履歴にも自分の名前で残ります。動くのは頼んだ人ではなく自分のIDで、見られるのは共有された内容だけ。アクセスは、チームがすでに使っている共有の設定に従います。
Gemini Enterpriseでは、これまでもノーコードでエージェントを作って社内に公開できました。今回の違いは、エージェントが「エージェントの一覧に並ぶ1つ」ではなく、Workspaceのアカウントを持つ「チームのメンバー」として現れるところにあります。
使えるのはまだ一部の企業、日本での条件は未発表
発表は大きいのですが、すぐ全員が使えるわけではありません。製品ページの注記によると、次の機能はまだ一部の顧客向けの早期アクセスで、全顧客への提供は「近日」とされています。
- 複数の手順からなる仕事を、バックグラウンドで任せる機能
- スマホ版とデスクトップ版
- Google以外のモデルの選択
The Vergeは、Gemini エージェントは今のところ企業向けのプライベートプレビューだと報じています。業界向けの特化版も、金融と法務がプレビューで、行政、医療、小売は近日です。
Gemini Enterprise自体には、無料で試す入口があります。製品ページによると、上位版の「Plus」は営業を通さずに30日間無料で試せます。小規模向けのBusinessエディションは、1席あたり月21ドルからで、こちらも30日の無料トライアルがあります。ただ、これは既存のGemini Enterpriseを試す入口で、トライアルを始めれば今回の新しいエージェントの機能が使える、という保証はありません。エディションの比較表もまだ今回の発表に合わせて更新されておらず、どのエディションでどこまで使えるかは書かれていません。
日本での提供の時期と条件は、まだ発表されていません。アジア太平洋向けの「Gemini at Work」が日本時間10月14日と15日に開かれるので(Google Cloud Japanの告知、日本語字幕あり)、まずはそこで追加の情報が出るかを見ることになります。なお、基調講演では日本企業の例として、保険会社のSOMPOが3万4,000人の社員で1万を超えるエージェントを作ったこと、NTTドコモがデータ分析のエージェントを使っていることが紹介されています。
他社で言えば、Copilot Coworkに一番近い
「長い仕事を任せられるAI」と「エージェントに自分のIDを持たせる仕組み」は、各社が出し始めています。私たちがこれまで記事にしてきたものと並べると、次のようになります。
| Gemini エージェント | Microsoft Copilot Cowork | ChatGPTのdots | Claude Cowork | |
|---|---|---|---|---|
| 対象 | 会社(Gemini Enterprise) | 会社(Microsoft 365 Copilot) | 個人のPro、会社のBusiness Premiumなど | 個人のPro・Max、会社のTeam・Enterprise |
| 主な土台 | Google Workspaceと社内のシステム | Microsoft 365 | ChatGPTと、つないだアプリ | Claudeと、つないだツール |
| 外部のサービスへの接続 | Microsoft 365、Slack、Salesforce、MCPなど | プラグインで社外のサービスにも接続 | アプリの連携 | コネクタやMCP |
| 提供の段階 | プライベートプレビュー、一部は早期アクセス | 2026年6月に一般提供 | 順次提供 | 提供中 |
| 詳しい記事 | この記事 | Copilot Cowork | dots | Claude Cowork |
(出典: Gemini エージェントはGoogle Cloudの発表と製品ページ、Copilot Coworkは一般提供の発表とプラグインの説明、dotsはOpenAIのヘルプと紹介ページ、Claude CoworkはClaudeのヘルプとコネクタの説明)
筆者は、Gemini エージェントに一番近いのはMicrosoftのCopilot Coworkだと見ています。どちらも会社の文脈を使って長い仕事をこなし、社外のサービスにもつながります。また、Copilot Coworkとは別の製品ですが、Microsoftには「Agent 365」というエージェントの管理の仕組みがあり、エージェントごとにIDを持たせられます。メールボックスを持つアカウントまで割り当てるのは、今のところ先行プログラムに参加している組織だけです。違いが出るのは、その「社員」が日々の仕事のツールのどこに、どう現れるかでしょう。Googleは、コワーカー エージェントをWorkspaceのアカウントとして、チャットやドキュメントのコメントにそのまま出てくる形で見せてきました。
任せる前に決めることは、IDと権限と予算
ここまでが公式の発表と報道の内容です。ここからは筆者の見方です。
Gemini エージェントの設計で目を引くのは、エージェントを人と同じように管理する前提で作られている点です。エージェントごとにIDを持たせて権限を最小限にし、操作はすべてエージェントの名前で記録に残す。隔離された環境(サンドボックス)で動かし、出入りする通信はすべて「Agent Gateway」を通して、「機密扱いの文書は開かせない」といったルールを全エージェントに一括で当てる。プロジェクトごとに支出の上限を決めると、上限に届いたところでエージェントが止まる。発表された設計は、「AIに任せる」より「AIの社員を雇って管理する」ための仕組みだと思います。
私たちもAI社員を作る仕事をしていて、このサイトの制作では、記事の執筆をClaude Code、第三者のレビューと画像の生成をCodexに任せています。そこで一番時間を使ったのは、AIそのものより、どこまで触らせるかを決めることでした。たとえば、記事も画像も、公開の操作だけは人の確認を通してからにしています。レビュー役のCodexには記事を読ませるだけで、書き換えの権限は渡していません。先日書いたAIにGoogleアカウントを使わせる前にの記事も、その線引きの話です。Gemini エージェントは、この線引きを管理の機能として用意する設計を発表しました。ただ、何を任せ、何を見せないかを決めるのは、使う会社の側に残ります。
試せるようになったときに、決めておきたい判断の軸は3つです。
- コワーカー エージェントに何を共有するか: 見えるのは共有したものだけ。逆に言えば、共有の設定でアクセスを許したスペースやフォルダは見える
- 覚えさせる範囲をどこまで許すか: やり取りから覚えていくので、残したくない情報は渡さない運用が要る
- 支出の上限をどこに置くか: 長い仕事を任せるほど、トークンと作業環境の費用がかかる。上限はプロジェクトごとなので、部署ごとにプロジェクトを分ければ、部署別の管理にも使える
プレビューの段階なので、料金、エディションごとの範囲、日本語での使い勝手は、まだ分からないことが多いのも事実です。日本での提供の時期と条件がいつ出るかが、次の目印になると思います。
最後に 会社のWorkspaceの管理者が今できること
Google Workspaceを使っている会社なら、次の3つから始めるのがよいと思います。
- Google Cloudの担当者に、早期アクセスの対象になるかを聞く: トライアルを始めるだけでは、新しいエージェントの機能が使えるとは限らない
- 任せたい仕事を1つ決めて、必要な共有と権限を書き出す: どのフォルダ、どのチャット、どのシステムに触れれば終わるか。それ以上は渡さない
- 10月14日・15日のアジア太平洋向けの「Gemini at Work」を見る: 日本語字幕つきで、追加の情報が出るかを確かめる
コワーカー エージェントの考え方は、Microsoftも別の形で進めています。どの会社の製品を選ぶにしても、「AIの社員に何を共有し、何を覚えさせ、いくらまで使わせるか」の3点を先に決めておけば、比べるときの物差しとしてそのまま使えます。