Sakana AI Fuguの使い方 複数AIを束ねる司令塔の仕組みと料金

2026年6月22日、日本のAIスタートアップ Sakana AI 株式会社(東京拠点)が、新しいAIサービス Fugu(フグ)を公開しました。一見すると「また新しいAIモデルか」と流したくなるニュースですが、中身はちょっと毛色が違います。Fuguは自前で大きなモデルを作るのではなく、世の中のフロンティアAIを複数束ねて指揮する司令塔型の設計です。
少し前にAnthropic Fable 5やMythos Previewが米国の輸出規制で停止した事件(当ブログでは4本目Fable 5・Mythos 5停止記事で扱いました)を、肌で感じた方も多いと思います。「気がついたら使っているAIが止まっていた」という体験です。Fuguはこの問題を、特定の1社のAPIに依存しないアーキテクチャで解こうとしています。
まず試したいだけなら、ブラウザで使えます。 公式が案内している入口は3つあって、対話画面の Sakana Chat、OpenAI互換の API、そして OpenRouter 経由です。コードを書かずに触りたい方はSakana Chatから入れます。詳しくは「Fuguの使い方」の章にまとめました。
(2026年9月10日追記: 公開当初はブラウザ用の対話画面が公式に案内されておらず、この記事にも「APIで組み込んで使う形が中心」と書いていました。その後Sakana Chatが入口として公式ページに掲載され、モデルもFugu Cyberを含む3種類に増えています。使い方・モデル・料金の各節を現在の内容に更新しました。2026年9月18日追記: 9月11日にコスト重視の Fugu Max と性能重視の Fugu Ultra v2 が出て、9月17日には Sakana Chat が Fugu Max に切り替わり、会話を覚えるメモリー機能が付きました。モデルと料金の節を更新し、末尾に「9月の更新」の章を足しています。)
この記事では、Fuguが何をするものなのか、どこで・誰が・いくらで使えるのか、何ができるのか、そして中小企業の現場から見るとどう位置づければよいかを、公式情報をベースに見ていきます。
Fuguの正体 1モデルではなく「複数AIを束ねる司令塔」
Fuguのキャッチコピーは「One Model to Command Them All」(一つで全てを指揮するモデル)です(Sakana AI公式リリース)。
普通のAIサービスは、自分たちの大きなモデル1つで全てに答えようとします。一方でFuguは、内部に複数のフロンティアAI(ChatGPTやClaude、Geminiなど、各社が現時点で公開している最高性能クラスのAIを指す呼び方です)をプールとして持ち、ユーザーからの依頼に応じて、最適なAIを動的に呼び分けるオーケストレーション(指揮)を担います。1つのAPIエンドポイントから呼び出すと、裏で「このタスクならこのAI」「次の段階はこっち」と振り分けられて、結果だけが返ってくる、という体験です。
ちなみに、厳密に言えばFugu自体も「モデル」と呼ばれます(Sakana AI公式でも "Fugu models" と表記されています)。ただしFugu自身は単独で答えを生成する役割ではなく、プール内のどのAIをどう呼ぶかを決める司令塔の役割を学習した、小規模なモデルと説明されています。本記事で「司令塔」と呼んでいるのはこの意味です。
設計思想として、Sakana AIは「現実の難しいタスクは、単一の巨大モデルが孤独に答えるより、専門性の違うAIの協調エコシステムが解く」と説明しています。同社は規模で殴る路線を取らず、指揮と協調で性能を引き出す方針を選んでいます。
なお、内部プールに具体的にどのモデルが入っているかは公式に詳細開示されていませんが、ベンチマーク比較の対象として Gemini 3.1 Pro、Opus 4.8、GPT 5.5 が引かれています。Fable 5やMythos Previewは「一般提供されていないため、Fuguのエージェントプールには含まれていない」と明記されています(同公式)。
Fuguの使い方 どこで・誰が・いくらで使えるのか
ここが読者の関心が一番強い部分です。順に見ていきます。
使い始める入口は3つ
Sakana AI公式の製品ページに、入口が3つ載っています。
| 入口 | 向いている人 |
|---|---|
| Sakana Chat | まず触ってみたい。ブラウザの対話画面で使う |
| API(OpenAI互換) | 自社のシステムや業務ツールに組み込む |
| OpenRouter | すでにOpenRouter経由で複数モデルを使っている |
いちばん手軽なのは Sakana Chat です。 ブラウザで開いて、モデルの選択肢からFuguを選ぶ形になります。コードを書かずに、どんな答えが返ってくるかを確かめられます。
APIは OpenAI互換 なので、すでにOpenAIのAPIを呼ぶコードがあるなら、エンドポイントとAPIキーを差し替えるだけで動きます。SDKの書き直しは要りません。
モデルは4種類
公開時は2種類でしたが、いまは4つあります(2026年9月18日時点の公式ページ)。
| モデル | 位置づけ |
|---|---|
| Fugu | 標準。性能とレイテンシのバランス |
| Fugu Ultra(v2) | 性能重視。難しい問題で回答品質を最大化。9月11日にv2へ |
| Fugu Max | コストパフォーマンス重視。9月11日に追加。束ねるモデルの数がいちばん多く、安いモデルで済む仕事は安いモデルに回す |
| Fugu Cyber | セキュリティ特化。脆弱性調査や脅威検知向け |
Fugu Cyberは料金が公開されておらず、利用は営業への問い合わせになります。
公開状況と地域制限
一般提供が始まっています(GA)。発表当日から、対象地域ではサインアップして利用できます。
ただし注意点として、現在はEU・EEA域内ではご利用いただけませんと公式に明記されています。日本からの利用は問題ありませんが、欧州拠点での利用を検討する場合は別の選択肢が必要です。
料金プラン
料金はサブスクリプションと従量課金の2系統です(2026年9月18日時点。円表記は1ドル=160円換算)。
サブスクリプション(Fugu・Fugu Ultra・Fugu Maxが使えます):
| プラン | 月額 | 内容 |
|---|---|---|
| Standard | $20(約3,200円) | 軽量な日常利用向け |
| Pro | $100(約16,000円) | Standardの10倍の利用枠 |
| Max | $200(約32,000円) | Standardの20倍の利用枠 |
(公開当初は2026年7月末までの登録で2か月目が無料になる特典がありましたが、この期間は終了しています。)
従量課金(API):
- Fugu(標準): 基盤モデルの標準レート
- Fugu Ultra(v2): 入力 $5 / 出力 $30 / キャッシュ入力 $0.50(いずれも100万トークン単位)。コンテキストが272Kトークンを超えると、入力 $10 / 出力 $45 / キャッシュ $1.00 にレートが上がります
- Fugu Max: 入力 $2 / 出力 $6 / キャッシュ入力 $0.25(100万トークン単位)。コンテキスト長によらず一律
- Fugu Maxでは、Web検索とWebページ取得がそれぞれ1回 $0.007 の別料金
ChatGPT Plus($20)やClaude Pro($17〜20)と並んで、最初に試す金額として手の届く範囲に収まっています。
何ができるか 性能とユースケース
性能の話を、Sakana AIが公開しているベンチマークから紹介します(出典: 製品ページ / 技術詳細)。下の表は2026年6月の公開時点の数値で、Fugu Ultraは当時のv1です。 9月に出たFugu Ultra v2とFugu Maxの数値は、後半の「9月の更新」の章にあります。
| ベンチマーク | Fugu | Fugu Ultra | 比較対象 |
|---|---|---|---|
| SWE Bench Pro(実コードのバグ修正) | 59.0 | 73.7 | 一般公開モデル最上位級 |
| LiveCodeBench(競技プログラミング) | 92.9 | 93.2 | Gemini 3.1 Pro 90.3、GPT 5.4 92.1、Opus 4.6 92.4 |
| GPQA-D(大学院レベルの理数推論) | 95.5 | 95.5 | Gemini 94.4、GPT 90.9、Opus 92.7 |
| Humanity's Last Exam(難問総合) | 47.2 | 50.0 | 公開モデル最上位級 |
公式は、Fugu Ultra が Anthropic Fable 5 や Mythos Preview と肩を並べる性能だと述べています。ただし、これはSakanaが作った単独モデルがFable級なのではなく、複数のフロンティアAIを束ねた結果としての総合性能である点は読み違えないでください。なお、比較表中の他社スコアは提供元の公表値を含むため、実業務での体感は自社の業務サンプルで検証してから判断するのが安全です。
実際のユースケース例として、公式は次を挙げています。
- コーディング、コードレビュー
- 論文の再現実装、Kaggleコンペティション
- 特許・文献調査、セキュリティ評価
- 株式トレーディングの分析、CAD生成
- 古文書(古典日本語のかな書状)の読み順推定
最後の古文書解読は、日本語処理の手厚さを示す例として挙がっており、日本企業にとっては嬉しい設計です。
IDE(Cline)で実際に試す手順
ここまで読んで「とにかく手元で試してみたい」と思った方向けに、いちばんフリクションが少ない試し方をご紹介します。VS Code に Cline という拡張を入れ、APIプロバイダ設定でFuguを指定するやり方です。
Clineは、VS Code上でAIにファイル編集・コマンド実行などを任せられるオープンソースのコーディングエージェント拡張です(AnthropicのClaude Codeに近い立ち位置で、もとは "Claude Dev" と呼ばれていました)。OpenAI互換APIを含むさまざまなAIプロバイダに対応しているので、FuguのようなOpenAI互換APIを「まずはIDEで触ってみる」用途には、いまのところ相性が良い選択肢のひとつです。
接続手順
- VS Code で Cline 拡張 をインストール(拡張ID:
saoudrizwan.claude-dev) - サイドバーの Cline アイコン → 歯車(Settings)を開く
- API Provider を OpenAI Compatible に設定
- 以下を入力:
Base URL: https://api.sakana.ai/v1
API Key: <SAKANAのAPIキー>
Model ID: fugu (高負荷用途には fugu-ultra)
APIキーは Sakana のコンソール(console.sakana.ai)から取得します。Base URLは Sakana 公式ページには明示されておらず、コンソール側に表示される値が正です(本記事執筆時点で https://api.sakana.ai/v1)。コンソールの値をそのままコピーすれば、設定はこれだけ。プロキシも変換層も不要、Cursorのような有料プラン縛りもありません。
実用上のクセ
ひとつだけ覚えておいてほしいのは、Cursor のような Tab 補完はないことです。Clineはチャット/エージェント経由でコードの提案や編集を返してくる方式なので、コードを書きながらリアルタイムに補完が出てくる体験を期待していると、最初は戸惑います。
それから、Clineは 各アクションごとに人間の承認を求めてくる仕組みです。最初は「ちょっとうるさい」と感じる場面が多いですが、これは私たちが各記事で繰り返している「人間の最終承認」の原則そのものです。慣れてきたら、Cline側の Auto-approve の項目別ホワイトリストや、いわゆる YOLO モード(全自動)で、自分なりのバランスに調整できます。
セッションごとのトークン消費とコストが Cline 上でリアルタイムに見えるので、Fuguの料金感を肌で掴むのにも向いています。最初の検証として、ChatGPT APIで動いているスクリプトの呼び先を Fugu に差し替えてみる、というのも手軽な始め方です。
中小企業の現場から見た「Fugu」の意味
ここからは、私たちのAI導入支援の現場視点で受け止めた話です。
Fuguがいちばん刺さるのは、「1社のAPIに依存しすぎることが、業務リスクとして無視できなくなってきた」という空気感が出ている経営層です。Sakana AIは公式リリースで、Anthropic Fable / Mythosの輸出規制を直接引きながら、「1社のAPIに依存することは物質的(material)な脆弱性だ」と書いています。実際、当ブログ4本目でも書いたように、ある日突然「お使いのAIモデルは利用停止になりました」という通知が届く可能性は、もう想像上の話ではありません。
Fuguはこのリスクに、内部のAIモデルを動的に差し替えることで構造的に対応しようとしています。あるモデルが止まっても、別のモデルにルーティングしなおして処理を続ける、という設計です。今後はSakana AI内製モデルや、オープンソースモデルも内部プールに加えていく予定とされています。
9本目のChatGPT/Gemini/Claude/Copilot どれを選ぶかで扱った「最初の1つをどう選ぶか」という問いに対して、Fuguは束ねて使うという第三の答えを提示している、と読むこともできます。重要業務でAIに依存し始めている中小企業ほど、選択肢として頭の片隅に置いておく価値があります。
使い始める前に知っておきたい注意点
便利そうな話ばかり書いてきましたが、いま現在(2026年6月時点)、Fuguにはいくつか確認しておくべき点があります。
地域制限: 前述のとおり、EU・EEA域内からは利用できません。日本国内拠点なら問題なし。
画面で対話するUIは、公開時点では明示なし: 2026年6月の公開時点では公式情報の中心がAPI利用で、「ブラウザを開いて、文章で話しかける」UIがあるかどうかは公式ページから読み取れませんでした。その後Sakana Chatが正式な入口になったので、この点は解消しています(上の「使い始める入口は3つ」を参照)。
プライバシー・データ取扱いの方針が公式製品ページに明示されていない: ChatGPTやClaudeのように「学習に利用するかどうか」のトグルや、Workspace相当の組織向けポリシーがあるかは、製品ページからは確認できませんでした。業務利用、特に機密情報を渡す前には、必ず利用規約(Terms of Service)とプライバシーポリシーを直接ご確認ください。
内部モデルの詳細は非開示: 「複数のフロンティアAIを束ねている」とだけ示されており、各タスクで実際にどのAIが呼ばれているかは、利用者側からは原則として見えません。なお、公式FAQによればFugu(標準)では一部のモデルを除外する設定が可能ですが、Fugu Ultraは性能を最大化するためにプール全体を固定としています。社内のコンプライアンス上、「特定のモデルを使わない」ことを保証する必要がある業務では、事前に利用規約と除外設定の対応範囲をご確認のうえご採用ください。
ベンチマーク数値は自社公開のもの: 公平な第三者検証ではなく、Sakana AIが自ら測ったベンチマークです。実業務での体感は、ご自身の業務サンプルで小さく試してから判断するのが安全です。
9月の更新 安さのFugu Max、性能のFugu Ultra v2、会話を覚えるSakana Chat
(2026年9月18日追記)
9月11日、Sakana AIがFugu MaxとFugu Ultra v2を公開しました。発表文の言い方を借りると、AIの性能は「賢さ」と「コスト」の2軸で見るべきで、簡単な検索に巨大モデルを使うのは賢いのではなく無駄だ、という考え方です。2つは別製品ではなく、同じ司令塔の仕組みを、違う目的に向けて調整したものです。
Fugu Max は「できるだけ低いコストで、できるだけ良い答えを出す」ことを目指した側です。束ねるモデルの数をこれまでで最も多くし(NVIDIAとの協業でNemotron系のオープンモデルも加わっています)、仕事ごとに、それを解ける中でいちばん軽いモデルに回します。料金は入力100万トークン $2、出力 $6。発表文は、出力の料金がSonnet 5、GPT 5.6 Terra、Kimi K3より40〜60%低い、Terminal Bench 2.1など6つのベンチマークで総合最高、10のベンチマークのうち7つで「同じ費用なら性能が高く、同じ性能なら費用が低い」という境界線を押し広げた、としています。
Fugu Ultra v2 は「複雑な仕事で回答の質を最優先する」側です。発表文によると、グラフや図表の読み取りを測るChartographyで48.3(比較対象のOpus 5は27.3、Fable 5は29.5)、実務のソフトウェア開発を測るDeepSWEでは74.3を記録し、8つのベンチマークのうち5つで最高または同率最高。注目したいのは、この成績をFable 5、Fable 5.1、GPT-6 Astraを束ねる対象に入れずに出している点です。Sakana AIはこの結果を、特定のフロンティアモデルに依存しないという6月からの主張の裏づけとして示しています。学習データは2026年8月28日までとあります。
どちらも従来と同じOpenAI互換APIで使え、すでにFuguを使っていればモデル名の指定を1行変えるだけです。サブスクリプション(Standard/Pro/Max)でも3つのモデルを選べます。
9月17日にはSakana Chatも更新され、対話画面のFuguが全ユーザーでFugu Maxに切り替わりました。あわせて、役割や文体の好みなど一度伝えた内容を次の会話にも引き継ぐメモリー機能が付き、NamazuとFugu Maxのどちらでも使えます。覚えた内容は設定画面で確認でき、機能ごとオフにもできますが、対象は更新後の会話だけで、過去の会話は覚えません。
読むときの注意は6月と同じです。ここで挙げた数字はSakana AIの発表に基づくもので、第三者による追試ではありません。比較対象のモデルや推論の設定によって順位は動きます。第三者の検証が出るまでは、「自社の仕事で、Fugu MaxとUltra v2のどちらが合うか」を、上の「IDE(Cline)で実際に試す手順」の章のように手元の案件で確かめるのが確実だと思います。
さいごに
Fuguは、AIの世界の「もう一つの答え方」を見せにきたサービスです。1社の巨大モデルに賭けるのではなく、複数のAIを束ねて指揮するという発想は、業務でAIに依存し始めた中小企業にとって、現実的な選択肢の幅を広げてくれます。
すぐ試したい方は、まずSakana AI公式のFuguページからStandardプラン($20、約3,200円)で1か月触ってみてください。OpenAI互換APIなので、社内ですでにChatGPT APIを叩いているシステムがあれば、エンドポイントを差し替えるだけで動作を比較できます。AIの調達リスクを構造的に下げたい経営者にとって、ちょうど良い「触ってみる」入口です。