新しいCopilotとは 社内アプリをM365で動かすManaged Runtimeまで解説

「Copilotを、あらゆるモデル、あらゆる端末、あらゆる仕事にまたがる、仕事のための新しいOSとして作っている」。9月25日の夜(日本時間)、Microsoftのサティア・ナデラCEOがXにこう投稿しました。ナデラ氏自身が「Copilotのこれまでで最大の更新」と呼ぶもので、同じ日にMicrosoftの公式ブログで中身が発表されています。
Home、Code、Autopilot、OfficeとCopilotの一体化。並んだ名前はどれも大きいのですが、中小企業にとって一番効いてきそうなのは、同じ日に地味に発表された「Copilot Managed Runtime」だと思います。AIで作った社内アプリを、自社のMicrosoft 365の中で、会社の管理のもとで動かすための基盤です。
新しいCopilotは「聞く・任せる・作る・自動で進める」を1か所に
公式ブログの言葉を借りると、新しいCopilotは「聞く、任せる、作る、自動で進める」を1か所でできる場所です。発表された主な機能を並べると、こうなります。
| 機能 | 中身 | 提供の予定 |
|---|---|---|
| Home | すぐ答える「Chat」と、仕事を任せて最後まで仕上げさせる「Cowork」を1つの画面にまとめた出発点 | 数週間以内に先行プログラムで |
| Office in Copilot | Word、Excel、PowerPointの本物のファイルを、Copilotの画面の中で作って直せる。チームにもそのまま反映される | 同上 |
| Code | 言葉で説明するだけで、アプリ、ダッシュボード、自動化を作る | 9月末に先行プログラムで |
| Autopilot | 名前、役割、目標を与えると、指示を待たずに動き続けるエージェント(以前の名前はScout) | 9月末に限定プレビュー |
| Today | メール、予定、Teamsから、今やるべきことをまとめて下書きまで用意する | 10月に限定プレビュー |
| Teamsの@Copilot | チャンネルや会議の文脈を踏まえて答え、関係者をまたぐ確認の準備までする | 9月末に限定プレビュー |
Coworkは、6月に一般提供が始まった「任せるCopilot」です。今回はそこに「作るCopilot」のCodeと、「自分で動き続けるCopilot」のAutopilotが加わりました。
Autopilotの例として挙がっているのは、取引先の見直しの進行管理です。予定と段取りを組み、準備と会議と、その後の確認の連絡までを自分で回し、関係者に進み具合を聞きに行く。Autopilotは社内に専用のID、記憶、作業用のコンピューターを持ち、クラウドで動くので、担当者が寝ている間も仕事を続けます。権限と監査の仕組みの中で動くので、同僚のようにTeamsやOutlookで@メンションして頼めます。
ここで押さえておきたいのは、これらの多くがまだ「先行プログラム」か「限定プレビュー」だという点です。先行プログラム(Frontier)は新機能を早く試せる仕組みで、企業で使う場合は、Microsoft 365 Copilotのライセンスを持ち、管理者が参加を許可した組織が対象です。明日から全社で使える、という話ではありません。
Copilot Managed Runtimeは、AIで作ったアプリの「置き場と管理」を引き受ける
さて、本題です。
CodeやCoworkを使えば、プログラミングを知らない人でも、言葉で説明するだけで業務アプリを作れるようになります。ただ、Managed Runtimeの発表が指摘しているとおり、動くアプリができるのは最初の一歩にすぎません。
- どこのサーバーで動かすのか
- 誰がログインして使えるのか
- どの社内データにつないでよいのか
- 会社のルールをどう守らせるのか
- 直すとき、今使っている人を止めずにどう入れ替えるのか
これを作ったアプリごとに用意していたら、手間もかかるし、アプリを作るツールごとに管理のやり方がばらばらになります。動くアプリと、会社で運用・管理できるアプリの間には、それなりの距離があるわけです。
Copilot Managed Runtimeは、この溝を埋めるための基盤です。Microsoftの言葉では「Microsoftが基盤を運用し、あなたの組織が境界を決め、コントロールはあなたの手に残る」。9月25日から公開プレビューで使えるようになりました。
仕組みは3つの部品でできています。
1つ目は、アプリを動かす場所(ホスト)。Microsoftが運用するクラウドの実行環境で、Microsoft 365の境界の内側でアプリが動きます。この上に載ったアプリは、次のものを最初から使えます。
- Microsoft Entra ID(Microsoft 365と同じログイン)による認証と、同僚への共有
- 使ってよいコネクタ、データ、接続先、監査を決める組織のポリシー
- Gitによる自動のバージョン管理。新しい版を試している間も、今の版はそのまま使える
- 利用状況、稼働状態の監視
2つ目は、開発者向けのツール(SDKとCLI)。アプリを作るツールとホストをつなぐ部品です。プロジェクトのひな形を作り、アプリが使うデータの接続を宣言し、TypeScriptからコネクタを型付きで呼び出すコードを生成し、手元で動かして確かめ、そのままデプロイとバージョン管理まで行えます。
3つ目は、管理者の画面。ホストで動くアプリは、Microsoft 365管理センターの新しい「Apps」画面に一覧で並び、誰が使えるか、どれだけ使われているか、正常に動いているか、ポリシーを守っているかを1か所で確かめられます。
一番のポイントは、作成に使ったツールが違っても、Managed Runtimeに載せたアプリは同じルールで管理されることです。Managed Runtimeはすでに、Cowork、Code、Copilot Studio(Microsoftのエージェント作成ツール)で作ったアプリの土台として動いています。そこへ、SDKに対応した他社のツールや開発者も乗れるようになりました。発表の中では、AIでWebアプリを作るサービスLovableの担当者が「Lovableで作ったアプリが、ほかのすべてと同じサインイン、同じポリシー、同じアプリ一覧で、Microsoftのテナントの中で動く」とコメントしています。
公式の説明にある流れは、こうです。チームがCoworkで新商品の発売を管理するアプリを作り、承認された計画データにつないで公開する。開発者がそのコードを引き取って、なじみのWeb技術で手を入れる。そのときに別のサーバーや管理の仕組みを立て直す必要はない。管理者は、どのツールで作られたアプリも同じ一覧で見て、同じルールを当てる。
作るツールの選択肢は広げつつ、誰がどのデータを使って作れるか、アプリを有効にするかどうかは、管理者が決める。作る場所と動かす場所を分けたのが、Managed Runtimeの核心です。
応用が効くのは「Excelとメールで回していた小さな業務」
ここまでが公式の発表で確かめた事実です。ここからは、中小企業での使い道についての筆者の考えになります。
Managed Runtimeが一番生きるのは、専用のシステムを入れるほどではないけれど、Excelとメールで回すには手間がかかっている業務だと思います。たとえば、次のようなものです。
- 案件や問い合わせの進み具合の管理: 共有Excelの進捗表を、担当者ごとに見られる画面にする。ログインは会社のアカウントで済み、つないでよいのは社内のSharePointやTeamsのデータだけ、とポリシーで絞れる
- 社内の申請と承認: 備品購入や休暇などの申請を、フォームと承認の画面にする。承認者はMicrosoft 365のアカウントでそのまま操作できる
- 部署専用のダッシュボード: 営業チームだけが見る数字の画面。項目を足したくなったら新しい版を裏で試し、今の画面を止めずに入れ替えられる
- 外部のツールで作った試作品: SDKに対応したAIツールで作った業務アプリなら、個人のアカウントに置いたままにせず、会社のテナントに載せ直せる(作り直しや手直しが要る場合もある)
どれも、これまでなら「誰かが個人で作ったツールが、その人のPCや個人の契約のクラウドで動いている」状態になりがちでした。AI導入を支援する立場から見ると、AIでアプリを作るのが簡単になるほど、こうした会社の目が届かないツールは増えていきます。作った本人が異動したら誰も直せない、どの社内データにつながっているか分からない、退職した人のアカウントでまだ動いている。AIでアプリが作れる時代の一番の問題は、作れないことより、作ったものが散らばることだと思います。
Managed Runtimeに載せれば、ログインは会社のアカウントになり、データの接続はポリシーの範囲に収まり、アプリは管理者の画面の一覧に出ます。作る人の手を止めずに、会社の目だけは届くようにできるわけです。これは、禁止するか放置するかの二択になりがちだった「社員が勝手に作るツール」の問題に、第3の選択肢を出したと読めます。
逆に、向かない使い方もあります。多くの取引先に使ってもらう社外向けのサービスや、Microsoft 365を使っていない人が主な利用者になるアプリは、今回の発表で示された使い方の例からは外れます。発表が想定しているのは、社内でMicrosoft 365のアカウントを持つ人が使う業務アプリです。基幹システムのように止まっては困るものも、プレビューのうちは載せないほうが無難でしょう。
料金は「月額」と「従量」の二本立てに
もう1つ、見落とせない変化があります。料金の仕組みです。同じ日に出た料金のブログによると、Copilotの料金は2つに分かれます。
| 区分 | 何に使うか | 払い方 |
|---|---|---|
| 日常のAI | Chat、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teamsでの質問や下書き、要約 | 1人あたりの月額ライセンス(これまでどおり) |
| 高度なAI | Cowork、Code、Autopilotのように長時間動く仕事や、FableやAstraなど最先端のモデル | 使った分だけの従量課金(Copilot Credits) |
Microsoftは、これをプラグインハイブリッド車にたとえています。月額ライセンスがバッテリーで、ふだんの走行はほぼこれでまかなう。従量課金はガソリンタンクで、遠くまで走るときだけ使う。月額ライセンスでは、自動でモデルを選ぶ「Auto」に加えて、GPT-5.6とSonnet 5を選べ、Opus 5は上限付きで使えるとしています。
中小企業にとって安心材料なのは、企業向けでは、管理者が支出のルール(支出ポリシー)を作るまで、従量課金の機能はオフのままで、請求も発生しないことです。予算は会社全体、グループ、ユーザーの単位で決められ、上限に近づいたときに警告を出すか、追加の申請を受けるかも選べます。請求は、会社のAzureのサブスクリプションにつなぎます。
Managed Runtimeについては、従量課金の費用管理の対象にCodeとManaged Runtimeが加わると発表されました。ただ、Microsoftの説明文書に載っている対象は、9月26日時点でまだCowork、Coworkで作ったアプリ、Work IQ APIの3つです。アプリ1つを動かすといくらかかるのか、具体的な単価も公表されていません。
注意したいのは、支出ポリシーには「今後対応するサービスにも自動で適用する」設定があり、最初からオンになっていることです。Coworkのために作ったポリシーが、Managed Runtimeなどに後から自動で広がるかもしれません。試す前に、管理センターで対象のサービスと、この設定を確かめておくのが安全です。
使い始める前に確かめること
発表の熱量に対して、実際に手元で使えるまでには、いくつか条件があります。
- ほとんどがプレビュー。Managed Runtimeは公開プレビュー、Codeは先行プログラム、Autopilotは限定プレビューです。仕様も料金も変わる前提で見ておく
- Microsoft 365 Copilotのライセンスが前提。先行プログラムに参加するにも、従量課金の機能を使うにも、Copilotの月額ライセンスが要る。Codeは、個人向けのMicrosoft 365 PremiumとProでも年内にプレビューが始まる予定
- Microsoft 365への依存は強まる。コード自体はGitで管理される普通のWeb技術で、手元に引き取れる。ただ、認証やコネクタ、データの接続をMicrosoft 365の仕組みに頼るほど、ほかの環境へ移すときの手間は増えると思う
- 既存のローコードとの住み分けは、まだ見えない。整理すると、CodeやCowork、Copilot Studioは「作る」ツールで、Managed Runtimeは「動かして管理する」基盤。比べるべきは、Power AppsとCodeのような作る側の住み分けで、これは今回の発表でははっきりしていない
Xでも、国内のエンジニアの間で「Managed Runtimeは地味に良い」「ビジネス側が作ったアプリの認証や運用をMicrosoft 365に任せられる」という反応が目立ちました。一方で「CopilotはOS」という言い方には、大げさだと冷ややかな声もあります。
最後に
Autopilotのような自分で動くエージェントは、見た目の派手さでは今回の主役です。ただ、中小企業が明日から考えるべきなのは、Managed Runtimeのほうだと思います。
AIでアプリを作るのは、これから文書を書くのと同じくらい当たり前になるでしょう。Microsoftも、仕事の単位が文書、表、スライドに加えて「小さな専用のアプリ」になると書いています。そうなったとき、会社に問われるのは「誰が作ってよいか」より「作ったものをどこで動かし、誰が見ているか」です。Managed Runtimeは、その答えの1つをMicrosoft 365の中に用意しました。
すぐ試すなら、Microsoft 365 Copilotを契約している会社は、管理者が先行プログラムの参加と、管理センターの「Apps」画面を確かめてみてください。契約していない会社も、今のうちに「社内で誰かが作った便利ツール」がどこで動いているかを棚卸ししておくと、この仕組みが来たときにすぐ判断できると思います。次に見ておきたいのは、11月17日から開かれるMicrosoft Ignite(Microsoftが毎年秋に開く企業向けの年次イベント)で、Managed Runtimeの料金と正式提供の時期が出るかどうかです。