AIに司令塔をやらせる サブエージェントで役割を分ける

AIに大きめの仕事を頼むと、だいたい同じところでつまずきます。最初の30分は快調なのに、だんだん話が噛み合わなくなる。前に決めたはずのことを忘れる。そして「さっきと言ってることが違う」と言いたくなる。
私たちの場合、この状態になるときは1つのAIに全部を積み上げていることが多いです。設計も、実装も、画像の生成も、確認も。人間の組織でそれをやったら破綻するのに、AIには平気で頼んでしまう。
いま別プロジェクトで、アニメーションの動画を1本作っています。そこで使っているのが、AIに役割を分担させて同時に動かすやり方です。実際に投げている指示ごと紹介します。
実際に投げている指示
先に断っておくと、この指示は会話の最初に投げたものではありません。
これを出す前に、AIとひとしきり相談しています。誰に何を伝える動画なのか。長さは何秒か。どんなトーンで、どういう順番で見せるか。使える素材は何があるか。そこを詰めて、方向性が固まった状態でようやく「じゃあ作ろう」となった。その瞬間に投げたのが次の指示です。
冒頭の「OK。そしたら一旦出来るところまでやってみよう」は、そういう文脈を受けた「OK」です。
OK。
そしたら一旦出来るところまでやってみよう。
設計や計画は君(Fable5 超高)が実施すること。
実際に作業させるのは、サブエージェントでOpus5の超高を使う。
画像や動画などクリエイティブ面はCodexの5.6Terra 極高を利用する。
会場素材について支給CG転用は構わないが、素材として使いにくければ無理に利用する必要はなし。
私がやらなければならない作業があるならやるのでステップバイステップでサポートして。
またブラウザを使う場合、Claude in Chromeの使用を許可する。
それじゃ頑張って!
書いてあるのは、チームを組むときの役割分担とほぼ同じことです。誰が設計して、誰が手を動かして、誰が絵を描くか。そして自分は何をするか。
(指示文では「画像や動画など」とまとめて書いていますが、実際にCodexへ任せているのは画像素材の生成です。動画そのものの作り方は後で説明します)
順番が逆だと、たぶんうまくいきません。 何を作るかが決まっていない状態で役割分担だけ指示しても、司令塔は設計から迷います。相談で方向を決める人間の作業と、決まったものを形にするAIの作業。この記事で紹介するのは後半のやり方で、前半を飛ばせるという話ではありません。
もうひとつ、この文面さえ貼れば動くわけでもありません。環境の前提があります。
前提: 2つの環境を持っていること
この指示が成立しているのは、手元に次の環境があるからです。
- Claude Code(ターミナルやデスクトップアプリで動くAI)。ここで司令塔とサブエージェントが動きます
- Codex CLI(OpenAIのコマンドライン版AI)。画像素材の生成に使っています
この2つは別々のサービスで、それぞれに契約と利用枠が必要です。 指示文にモデル名を書けば自動でつながる、というものではありません。私たちの場合、Claude Code側から codex コマンドを実行する形で受け渡しています。
さらに、サブエージェントという機能自体が、Claude Codeのような対応環境で使えるものです。ブラウザのチャット画面だけを使っている場合、この記事の構成はそのままでは組めません。
指示文の最後にあるブラウザ操作の許可も、事前にClaude in Chromeの拡張機能を入れて権限を設定してあるのが前提です。プロンプトで「許可する」と書いただけでは、拡張機能は入りません。
サブエージェントは「AIが呼ぶAI」
言葉の整理から。サブエージェントは、いま話しているAIが自分の判断で呼び出す別のAIです。人間が新しくチャットを開くのではなく、AIの側から「この作業はあの担当に振ろう」と呼ぶイメージ。
分ける理由は2つあります。
1つ目は、覚えていられる量に限りがあること。 AIには一度に扱える情報量の上限があり、会話が長くなるほど埋まっていきます。埋まると、古い話から曖昧になる。冒頭の「さっきと言ってることが違う」の原因の1つがこれです(指示が曖昧だった、途中で前提を変えた、といった別の原因もあります)。
作業を1人のAIに任せ続けると、設計の議論も、試行錯誤の記録も、エラーの山も、全部その1人の頭に積み上がります。サブエージェントに渡せば、細かい試行錯誤は担当の側で完結し、司令塔には結果だけが返ってきます。ただし司令塔の仕事がなくなるわけではなく、指示を出す、結果を読む、食い違いを直す、という仕事は残ります。
2つ目は、同時に走らせられること。 依存関係がなく、触るファイルも重ならない作業なら、複数のサブエージェントを並行で動かせます。ただし人間が完全に手を離せるわけではなく、途中で判断を求められることもあります。担当を増やせばそれだけ利用量も増えるので、契約プランの上限に早く届く点にも注意が要ります。
得意分野でモデルを割り当てる
指示の中で3つの名前を使い分けています。これは適当に散らしているわけではありません。
- 司令塔(Fable 5): 設計と計画。全体の整合性を見る係
- 作業担当(Opus 5・サブエージェント): 実装。決まった仕様どおりに手を動かす係
- クリエイティブ(Codex): 画像素材の生成。Claudeとは別系統のAIです
1つ補足を。今回の動画は、AIが動画そのものを吐き出しているわけではありません。コードでアニメーションを組み立てて書き出す方式で作っていて、Codexに任せているのはその中で使う画像素材の生成です。「AIに動画を作らせる」と一括りにすると、実態を見誤ります。
「超高」「極高」という言葉も出てきますが、これはAIにどれだけ考え込ませるかの設定を、私たちが普段そう呼んでいるだけのものです。深く考えさせるほど消費も待ち時間も増えます。今回は全体を高めに設定しました。見た目が自動的に良くなるからではなく、工程が多く、前後の整合を取りながら進める必要があったからです。
口頭で指示せず、設計書に書かせる
ここが実務で一番効いた部分です。
司令塔に設計をやらせると、その成果はチャットの中の文章として出てきます。これをそのまま担当に口移しすると、伝言ゲームで劣化する。そこで、設計を1つのファイルに書き出させます。
実際のプロジェクトでは DESIGN.md という仕様書を作らせました。中身は、出力仕様(解像度・尺・形式)、色の指定、シーンごとの構成と秒数、そして禁止事項。サブエージェントには「このファイルを読んでから実装して」と渡します。
ファイルにする利点は3つ。担当が何人いても同じ仕様を読める。 人間が読んで確認・修正できる。 仕様を変えたとき、ファイルを直せば次からの作業に反映される。
実際、途中で大きな方針転換がありました。支給された会場素材を使う前提で作っていたのを、背景ごと自作する構成に変えています。このとき設計書の冒頭に「この指示を最優先で守ること」と日付つきで書き足しました。
ただし、ファイルを直しただけでは、動いている担当には伝わりません。 通知の仕組みではないからです。すでに走っているサブエージェントは古い仕様のまま進むので、いったん止めて指示し直す。次の作業を頼むときは「まず設計書を読んでから着手して」と毎回添える。ここを面倒がると、新旧の仕様が混ざった成果物ができあがります。
人間の仕事は「承認」と「素材の供給」に寄る
指示文の後半、地味ですが重要な一文があります。
私がやらなければならない作業があるならやるのでステップバイステップでサポートして。
AIに任せない仕事があります。有料素材の購入、社内の誰かへの確認、支給ファイルの受け取り、そして最終的な良し悪しの判断。権限を与えれば技術的にできてしまうものもありますが、お金と対外的な連絡と最終判断は人間に残すと決めています。ここを曖昧にしたまま進めると、的外れな代替案のまま先へ進んだり、作業が止まったりします。
先に「人間側の作業があるなら言って」と宣言しておくと、作業を人間に戻す判断をしやすくなります。実際この動画制作でも、BGMの選定とロゴの支給待ちが人間側のタスクとして切り出され、進捗メモに「人間待ち」として並びました。AIはその2つを飛ばして先に進み、揃った時点で組み込む段取りになっています。
確実にやらせたいなら、「購入・外部への連絡・ブランドに関わる判断は、必ず私に確認してから」と具体的に線を引いておくと、より安定します。
「確認しやすい形」で出させる
任せきりにできない部分もあります。確認です。
50秒の動画を作るとき、毎回書き出して最初から見ていたら日が暮れます。そこで、確認したい瞬間のコマだけを静止画で書き出すようにしました。選んだのは、シーンが切り替わった直後、演出が完成する瞬間、そして終了画面。等間隔で機械的に切るのではなく、壊れていたら困る場所から選びます。
これで修正の往復は目に見えて速くなりました。ただし静止画で分かるのは絵の中身だけです。動きのつながり、尺、音の合い方は静止画では見えません。静止画で速く回すのは、絵の中身を詰めている間だけ。動きや尺に手を入れた節目と、最終版は通しで見る。 この使い分けが要ります。
考え方としては、AIとの仕事全般に応用できると思っています。成果物そのものより先に、成果物を確認する手段を用意させる。 完成品を毎回まるごと点検していると、確認が面倒になり、やがて確認しなくなる。そこが一番危ない。
増えるものもある
いいことばかりではないので、最後に。
担当を増やすほど、消費は増えます。 サブエージェントはそれぞれが独立して動くAIなので、動かした数だけ利用量が積み上がります(増え方は作業の重さによります)。速く終わることと、安く終わることは別です。使いすぎの心配があるなら、コスト管理の考え方を先に見ておくといいと思います。
そのうえで、小さく始めるなら2つだけ。次にAIへ少し大きめの仕事を頼むとき、この2つを足してみてください。
1つ目。「設計と実装を分けて。設計はあなたが、実装はサブエージェントにやらせて」と足す。 サブエージェントが使える環境なら、全体像を持つ役と手を動かす役を分けて進めやすくなります。
2つ目。「私がやるべき作業があれば、そのつど教えて」と足す。 AIが自分の判断で埋めていた穴を、人間に戻すよう促せます。
どちらも、そのとおりに動いたかは人間が見て確かめてください。指示は保証ではありません。
役割分担が必要になったのは、AIが賢くなったからではありません。任せられる範囲が広がったぶん、1人に積むと溢れるようになった、という話です。人を増やすときに考えることと、たぶん同じです。