Siri AIが来た iPhoneのAIが「アプリをまたいで動く秘書」になった

9月15日、日本でもiOS 27が配信されました。目玉はSiri AIです。Appleが「完全に作り直したSiri」と呼ぶもので、英語のベータとして始まり、日本語は米国の発表では10月、日本向けの案内では年内とされています。Xでは「Appleの本気」「賢すぎる」という投稿が数千から2万のいいねを集め、「Apple Intelligenceの容量がOS本体より大きい」と笑う声も並びました。
Siriが賢くなった、という話は毎年聞かされてきました。今回が違うのは、賢さの方向です。質問に答える力より、あなたのメッセージやメールや写真の中身を読み、いま画面に出ているものを見て、アプリをまたいで作業を進めるところに力が入っています。iPhoneの中で秘書が動き始めた、と言ってよいと思います。日本語が来れば、対応端末を持つ社員は自分で有効にできるようになります。その前に、会社として何を決めておくべきかが、この記事の主題です。
できるようになったのは、探すことより「つなぐ」こと
Appleのプレスリリースが挙げる例が、いちばん分かりやすいです。家族が次に来るときに何をしたいと言っていたか、とSiriに聞く。Siriがメッセージを検索して「家族に伝わるレシピを一緒に作りたい」と書いてあったのを見つけ、以前その家族がメールで送ってきたレシピの手順を開き、材料をリマインダーの買い物リストに追加する。メッセージ、メール、リマインダーの3つのアプリをまたいで、1回の依頼で終わっています。
| 見えるもの | できること |
|---|---|
| メッセージ、メール、カレンダー、メモ、リマインダーなどの個人文脈 | 探す、要約する、そこから次の行動に進む |
| いま画面に出ている内容 | 画面上のものについて答える、画面の情報を使って動く(例: 表示中のサイトから試合日程を取ってカレンダーに入れる) |
| カメラに映っているもの | 音楽フェスのポスターから出演時間を読み、複数の予定を作る |
| Web | 最新情報を取りに行って答える |
| 対応アプリの操作 | WhatsAppで送信、Audibleで再生。近く、Outlookでメール下書き、Notabilityで課題検索など |
会話は続けられ、履歴は新設のSiriアプリにiCloudで同期されるので、iPhoneで始めた話をMacで続けられます。書く場面にも入っていて、どこで文字を打っていてもSiriに下書きを頼めるほか、メールとメッセージでは相手ごとにいつも使っている口調に寄せた文章を作る、とあります。
モデルはGoogleと協力して作り、動くのはAppleの中
このSiriを動かしているものについて、Appleは同じプレスリリースの終わりで短く書いています。「これらの新しい機能は、次世代のApple Foundation Modelsによって動いている。Googleとそのモデル群であるGeminiとの協力のもとで、Apple Intelligenceのために独自に構築したものだ」。そして「最新のモデルは、端末上と、Private Cloud Computeを使ったサーバー上で動く」。
ここは3つに分けて読むと、会社の判断に使えます。モデルを誰が作ったか、どこで動くか、外のサービスとどうつながるか、の3つです。作ったのはAppleで、Googleとそのモデル群であるGeminiの協力を得ている。動くのはAppleの端末とAppleのサーバーで、サーバー側で処理される依頼については「個人データはAppleにも誰にも保存されず、アクセスもできない」「外部の専門家がいつでも検証できる」というのがAppleの説明です。ただしSiri AIにはWeb検索やサードパーティアプリの操作、外部AIサービスとの連携もあり、そこを通る情報はこの説明の外です。「AppleのAIは端末の中で完結する」という印象を持っている方は、開発元、処理場所、外部連携先は別々のものとして更新したほうがよいと思います。
端末上の最も強いモデルは「AFM Core Advanced」と名付けられていて、これが動くのはiPhone 17 Pro、17 Pro Max、18 Pro、18 Pro Max、iPhone Air、iPhone Duo、メモリ12GB以上のM4以降のiPad、同じくM3以降のMac、M5のVision Proです。Apple Intelligence自体はiPhone 15 Pro、15 Pro Max、iPhone 16以降、iPhone Airで使えますが、表現力のある声と音声入力の精度向上は新しめの端末だけ、という段差があります。
日本語は年内、ただしベータで順番待ちで、回数に上限がある
日本の読者が気にする点は5つあります。
- 言語: Siri AIは英語から始まり、フランス語、日本語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語が続きます。米国のプレスリリースは「10月」と書いていますが、Appleの日本語サイトは「年内に日本語でも」とやや控えめです
- ベータと順番待ち: Appleのサポートページによると、端末の言語とSiriの言語を同じ対応言語にし、Apple Accountの地域が対象であることが条件で、設定から申し込むと順番待ちに入ります。すぐ使える保証はなく、日本語が来た時点でも順番待ちが続く可能性があります
- 回数の上限: サーバー側のモデルを使う機能には1日の利用回数の上限があり、機能、依頼の複雑さ、混雑で変わります。プレスリリースには「上限の拡大は今後、有料で提供する」とあり、Apple Intelligence利用規約にも利用制限の条項があります
- 地域: EUではiOS、iPadOS、watchOSのSiri AIは当面提供なし。日本は対象です
- 端末: Apple IntelligenceはiPhone 15 Pro、15 Pro Max、iPhone 16以降、iPhone Air、iPad mini(A17 Pro)とM1以降のiPad、MacBook Neo(A18 Pro)とM1以降のMac。iOS 27自体はiPhone 11 Pro Maxのような古い端末にも入りますが、Siri AIは動きません
日本語で、順番待ちなしで、上限なく使える、という状態は今日の時点では揃っていません。日本語が来ても、ベータと上限は残る前提で見ておくのが安全です。
会社のiPhoneで決めておくこと
私たちがAI導入支援で扱う「社員の端末に入るAI」の話として読むと、決めておく点が3つあります。
1. 個人文脈を読むAIを、会社の端末で許すか
Siri AIの価値は、メッセージ、メール、写真を横断して読むところにあります。裏返すと、会社支給のiPhoneでは、業務メールと取引先とのメッセージと現場写真を横断して読むAIが入る、ということです。Appleのサーバーで処理される分は保存されないという説明ですが、Siriとの会話の履歴はiCloudでその人の端末間に同期されます。業務情報を含む質問と回答が履歴に残り、その人の私物のMacやiPadにも同期される可能性がある、と見ておくべきです。どこまでが履歴に残るかは公式資料に明記がないので、導入前に自社で確かめる項目になります。
止める手段はあります。Appleのエンタープライズ向け案内には「デバイス管理でSiri AI、Visual Intelligence、自然言語によるカレンダー編集を制限できる」とあり、Apple Businessの構成では作文ツール、メール要約、外部AIサービスとの連携などを個別に許可・禁止できます。ただし、会社に管理登録していない私物端末に、Siri AIを端末ごと止める制限を強制することはできません。
2. 「アプリをまたいで動く」を、自社アプリまで広げるか
Siri AIがサードパーティアプリを操作できるのは、アプリ側がApp Intentsという仕組みで「この機能とこの内容は外から使ってよい」と宣言しているからです。自社で業務アプリを作っている会社は、Siriから呼べるようにするかどうかを決める立場になります。呼べるようにすれば、社員は「昨日の訪問記録に写真を添えて」を声で頼めるようになる一方、Siriに何を見せ、何を実行させるかの線引きが自社の設計に入ってきます。この線引きの考え方は、ChatGPT WorkのData agentの記事で書いた「つなぐ前に権限を決める」と同じです。
3. 上限に当たった日と、上限の拡大が有料になった日のルール
1日の上限があり、拡大は有料になる。「業務で使ってよい」と決めるなら、決める項目は具体的です。上限に当たったら別の手段に切り替えられる業務だけをSiriに任せるのか、個人で上限を広げる選択肢が出たときに認めるのか禁じるのか、会社で持つなら誰の端末までか。上限が来てから慌てるより、任せる業務の範囲を先に切っておくほうが揉めません。
管理していないスマホでは、先に使われうる
会社が更新を管理していても、管理していない私物のiPhoneでは、日本語が来た日から社員が自分の判断でSiri AIを有効にできます。自分のメッセージと写真を読むAIを、社員は自然に使い始めるでしょう。そこに業務のやり取りが混ざっているかどうかは、会社のルールではなく、その社員の使い方で決まります。
読める範囲は、正確に押さえておく必要があります。Siri AIが個人文脈として読むのは、Appleの標準のメッセージ、メール、カレンダー、メモ、リマインダーと、App Intentsに対応したアプリの範囲です。LINEのようなアプリの中身が読めるかは、そのアプリが対応するかどうかで決まり、今日の時点では確認できていません。一方で、標準のメッセージやメールで取引先とやり取りしている現場では、取引先の名前も金額も、日本語が来た日からAIが読める文脈になります。それ自体は便利で、たとえば「先週の現場の写真を工務店に送っておいて」が声で済むようになる。便利さを取るか、業務連絡を会社の管理下にあるアプリに寄せるかは、AIの性能ではなく会社の判断です。
だから、決める順番は「会社の端末をどう制限するか」より先に、「管理していないスマホで業務の連絡をしているか」の棚卸しだと思います。
さいごに 日本語が来る前に、自分のiPhoneで試す
すぐ試してみたいなら、Apple Accountの地域が対象であることを確かめたうえで、対応するiPhoneの言語とSiriの言語を英語にして順番待ちに入り、機密を含まないテスト用のメッセージやメールについて英語で聞いてみるところからです。見ておくのは3つ。何が読めて何が読めないか(標準アプリと、対応アプリと、非対応アプリの差)、Siriアプリの履歴が別の端末にどう出るか、Apple Businessの制限を入れたときに何が止まるか。日本語で社員が使い始める前に、決める側が先に触っておくのがいちばん早いと思います。次に見るのは、日本語対応の正式な日付と、有料枠の値段です。