GPT-Live-1がAPI提供開始 音声AIを業務に入れる入り口が開いた

9月9日、「人生で初めてAIが面接に来た」という投稿がXで広まりました。投稿したのはAIベンチャーKOWROの原田祐二CEOで、オンライン面接の動画つきです。実際に動画を見ると、妙な間が空いていたり、候補者は社名のKOWROを「COLOさん」と読み間違え、発話と口の動きが合わず、指摘すると通信の遅延の可能性を挙げ、AIの利用を問われると「ご自身が直接お話しています」と答えていました。原田氏は「ご自身とか自分ではあまり言わないですよね」と指摘して面接を終えました。
候補者本人はAIの利用を否定していて、実際に何を使っていたのかは分かっていません。分かっているのは、原田氏が妙な間、社名の誤読、口の動きと声のずれ、人が言わない言い回しに違和感を持ち、途中で面接を終えたことまでです。動画の前から「なんか変だな」と感じていたそうなので、今回は違和感のほうが先に立ちました。
その翌日の9月10日、OpenAIがGPT-Live-1をAPIで提供開始しました。7月にChatGPTの音声モードへ入った「聞きながら話す」モデルが、開発者が自分のアプリや電話に組み込める段階になったということです。7月の記事で「本番の顧客電話にAIを入れるのはAPIを待つのが現実的」と書きました。本番に入れられるかは別の話ですが、試せる段階には進みました。音声AIを業務に入れる入り口が、開きました。同時に、間の取り方や言い回しのような会話に由来する違和感は、この先は手がかりにならなくなるかもしれません(口の動きのずれは映像の話で、GPT-Live-1の範囲外です)。この記事は、その両面を一次情報で整理します。
「聞きながら話す」をAPIから使えるようになった
GPT-Live-1の特徴は、聞くことと話すことを同時にできる点です。全二重(full-duplex)と呼ばれます。公式ドキュメントは「話している最中に聞ける」と説明していて、相手が途中で割り込んでも、相づちを打っても、会話を止めずに扱える設計です。
従来の音声エージェントは、音声をテキストに起こす、テキストで考える、テキストを音声に戻す、の3段を鎖のようにつないで作っていました。公式発表はこの構成を「連鎖型(cascaded)」と呼び、段の受け渡しごとに遅れが生まれ、間や文脈や会話のリズムを落とす機会が増えると書いています。割り込まれたらどうするか、黙られたらどうするか、話題が変わったらどうするか。その調整役を開発者が全部書いていたわけです。
GPT-Live-1は、聞くと話すを1つのモデルで扱います。発表文には患者対応に使っている顧客の言葉として「連鎖型の構成と比べてコードベースが80%簡素化され、2万3,000行のコードを取り除けた」という声が載っています。語学アプリのSpeakでは、学習者が答えを考える時間を待てるようになり、従来の交互発話型と比べて割り込みが80%近く減ったとのことです。
聞きながら話せるだけなら、7月のChatGPTと同じです。API版で足されたのは、話し方の指定です。口調、速さ、会話のスタイルをシステムプロンプトで決められるようになり、背景の雑音や沈黙があっても会話を中断せず、途中経過をいちいち声に出さない点も改善したと書かれています。
声の担当と考える担当は分けて作る
ここがAPI版の設計の芯です。GPT-Live-1は会話を担当し、深い推論やツールの操作は後ろの別モデルに渡します。公式はこれを「委譲(delegation)」と呼びます。委譲のガイドによると、渡し方は2つです。
| 方式 | 後ろで動くもの | 向いている場面 |
|---|---|---|
| Responses委譲 | OpenAIのResponses APIに対応したモデル | 後ろの呼び出しを管理された形で早く始めたいとき |
| クライアント委譲 | 自社のアプリが動かす任意のモデル、エージェント、サービス | 後ろの処理や、GPT-Live-1に返す内容を自社で制御したいとき |
どちらの方式でも、権限や確認、業務の記録を持つのはアプリ側です。クライアント委譲なら、後ろは他社のモデルでも構いません。発表文でも「GPT-6 Astraのようなバックエンドのテキストモデル、または第三者のモデル」に委譲できると明記されています。声の部分だけOpenAIを使い、考える部分は自社が普段使っているものを置く、という組み方が公式に認められた形です。
後ろのモデルは仕事によって変えられます。発表文の例は、予約や注文状況の確認のような量の多い仕事にはLuna、推論が要る込み入った問い合わせにはAstra、という使い分けです。ドキュメントの推奨は、まずGPT-5.6 Terraで始め、費用を抑えたい仕事にはGPT-5.6 Lunaを試す、となっています。声は1本のまま、頭を仕事ごとに付け替える構造だと考えると分かりやすいです。
見落としやすいのは、責任の置き場所です。ガイドには「権限、確認、非公開の関数の実行、タスクの状態はアプリケーション側が持つ」と書かれています。しかも「発話を遮っても、後ろで動いている処理は自動では止まらない」とも書かれています。声が「はい、キャンセルしました」と言うのと、実際にキャンセルされたかは別の話で、公式の指示は明確です。「確認済みの値を使う。成功した行動をでっち上げない」。声の自然さは上がりましたが、間違えたときに止める仕組みは、相変わらず作る側の仕事です。
電話の向こうに置ける段階まで来た
7月の記事で「まだ本番の顧客電話に入れる段階ではない」と書いた理由の1つが、電話につなぐ手段がなかったことです。API版はここを埋めています。電話とSIPのガイドによると、SIPで直接つなぐ方法と、Twilio、Telnyx、LiveKit、Daily/Pipecatといった既存の電話基盤やフレームワーク経由でつなぐ方法があります。発表文が挙げる用途は、飲食店の予約から顧客サポートまでです。
かかってきた電話を受けるのは直接SIPで書けますが、こちらから発信する電話はAPIの直接呼び出しでは対応しておらず、電話会社側の連携を使う、とガイドにあります。すでにRealtime APIで電話対応を作っている会社は、そのままでは動かない点にも注意が要ります。ドキュメントには「Realtime向けの連携がGPT-Liveと自動で互換とは限らない」と書かれています。
では、電話の向こうに置いてどれくらい仕事になるのか。OpenAIが公式アカウントで示した数字を並べます。
- Tau3(航空、小売、通信の顧客サポート業務を音声で完了できるか): GPT-6 Astraを中程度の推論で組み合わせた構成で、初回で83.6%の業務を完了。GPT-Realtime-2.1は45.7%
- 応答の速さ(相手が話し終えてから話し始めるまで): 0.798秒。GPT-Realtime-2.1は1.41秒
- TauBanking(銀行業務を想定した97件のタスク。書類から情報を探して適用しながら顧客の依頼を解決する): 38.1%
最後の数字は、公式が自分から出したものです。銀行業務に限った結果ですが、書類を引きながら判断する仕事の一例で、この条件では4割弱だったということです。予約や注文確認のような型の決まった仕事と、規定を読んで判断する仕事とでは、置ける場所が違います。Yelpは予約や注文の電話をGPT-Live-1で受けて「電話の処理率が意味のある改善をした」とコメントしていますが、具体的な数字は出していません。
声は分あたり5セント、考える側は別料金
料金は分かりやすくなりました。モデルページによると、音声セッションは1分あたり0.05ドルで、秒単位の課金です。1時間話し続けて3ドルという計算になります。
ただし、これは声の層だけの値段です。後ろで考えるモデルとツールの利用は、それぞれのモデルの通常料金で別に課金されます。OpenAIに払う分を見積もるときは、声の分数に加えて、後ろのモデルに何を何回聞かせるかを数えないと合いません。委譲の回数と後ろのモデルの選び方で、同じ通話時間でも費用が変わります。ざっくり言えば、通話本数×平均分数×0.05ドルに、後ろのモデルとツールの利用料(入出力の量で変わります)を足した額で、電話回線や電話基盤の費用はこれとは別です。
同時に受けられる本数にも上限があります。上限は分数やトークンではなく同時セッション数で決まっていて、Tier 1で25、Tier 5で500です。無料枠では使えません。電話窓口の最大同時着信数と照らして、どの段階のアカウントが要るかを先に見ておく必要があります。自社の声を作る「カスタムボイス」は営業窓口への相談が前提で、APIから勝手には作れません。
日本語対応は公式がまだ書いていない
APIの日本語対応は、公式の資料では確認できませんでした。発表ページには12種類の新しい声が並び、「アクセント、方言、言語の幅を広げた」とありますが、対応言語の一覧はありません。今回確認したはじめ方、委譲、電話、連携先、モデルページのどこにも、日本語という言葉は出てきません。発表文は「今後数か月で声の選択肢と言語の提供を広げていく」としています。
だから、日本語の電話対応を本番に置く判断は、まだ公式の言葉だけではできません。幸い、発表ページには時間制限つきのデモがあり、ブラウザから直接話しかけられます。日本語で話しかけ、会社名や住所や電話番号のような固有名詞と数字を言い、途中で割り込み、言い直し、黙り、雑音のある場所でも試す。それぞれ通ったか落ちたかを書き留めておくと、あとで設計の判断材料になります。割り込みへの反応、間の取り方、聞き取りの精度は、自分の耳で確かめるのがいちばん早いです。ここが曖昧なまま「公式が言っているから」と設計を進めると、本番で失望します。
入り口に立った今、決めるのは「声に何を任せるか」
私たちがAI導入支援で電話や受付の自動化の相談を受けるとき、最初に聞くのは「間違えたときに誰が止めますか」です。声が自然になるほど、この問いは重くなります。相手は、自然な声を信じるからです。
7月の記事で挙げた5つの業務場面のうち、4つはChatGPTの音声モードで今日から試せるものでした。残る1つ、顧客対応だけを「APIを待つ」としていました。その1つが動かせるようになった今、決めることは3つに絞れます。
- 声に任せる仕事と、人に戻す仕事の線。予約、注文の確認、営業時間の案内のような型の決まった仕事は前者の候補、規定を読んで判断する仕事は後者の候補です。公式の数字は、最初に試す仕事を選ぶ材料になります。線を引く軸は、誤りに気づいて直せる仕事か、一度の誤処理が重い仕事か。最後の線引きは、自社の業務で測ってからにします
- 確認の置き場所。「キャンセルしました」と言う前に、実際に処理が完了したことをアプリ側で確認する。公式ガイドが「確認済みの値を使う」と書いている部分を、設計の最初に入れます
- AIであることを名乗るかどうか。冒頭の面接の話に戻ります。面接官が頼った手がかりのうち、間や言い回しのような会話に由来するものは、来年には手がかりでなくなっているかもしれません。自社が電話をかける側、受ける側になるとき、相手に「AIが応対している」と伝える設計を、自社の姿勢として先に決めておく。業種や通話の相手によって守るべき法令や業界のルール、取引先との約束は変わるので、その確認は並行して進めます。信頼は、見抜けるかどうかではなく、最初に言うかどうかで決まります
すぐ試してみたいなら、発表ページのデモに日本語で話しかけるところからです。次に観察するのは、対応言語の公式アナウンスと、Tier別の同時セッション数が自社の着信量に足りるかどうかの2つで、これは最初の関門です。その先に、業務ごとの成功率、誤処理を止める仕組み、人への引き継ぎがあります。そこまで見えたとき、「本番の顧客電話に入れるのはまだ早い」という7月の一文を、私たちも書き換えます。