利用者インタビューー株式会社インキュベイトファンド
株式会社インキュベイトファンド
2018年11月に正式リリースしたインキュベイトファンドの「IF Talent Network」。有望なスタートアップ企業と優秀な人材を繋げるこの取り組みで何を実現しようとしているのか、プロジェクトの責任者でありインキュベイトファンドHRマネージャーの壁谷さんにお話しを伺いました。
HRマネージャー/壁谷 俊則様
新しいチャレンジを志す人たちのプラットフォームでありたい。
Q.:まずインキュベイトファンドさんに入社したきっかけを教えて下さい。
インキュベイトファンドには、キャリアの軸とご縁の軸という2つの軸が重なって入社することになりました。
まずキャリアの軸ですが、1995年、大学に入った頃から20代半ばまでETIC.(エティック)というNPO法人の立ち上げから運営まで長く携わっていました。
ETIC.では次世代の起業家型リーダーの育成や、社会起業家支援をしているのですが、当時は長期実践型のインターン事業を手掛けていました。そのインターン生の受け入れをしていただいていたのが、当時ベンチャーと言われ注目を集めはじめていた創業まもない企業でした。実際その繋がりから多くの人脈もでき、ベンチャーの面白さを肌で感じる機会に恵まれました。
その後、大学を卒業してフューチャーベンチャーキャピタルに入社しました。30歳になる手前頃から学生時代にNPOで関わった人達から転職相談を受けることが多くなり、人材紹介会社にキャリアを移しまして、その後この業界で12年、人材紹介エージェントとしてキャリアを積んできました。
元々若い人たちが新しい事業を起こしていくという事に近くで関わっていたので、人材紹介においてもそのお手伝いを中心にやりたい気持ちが強かったのですが、どうしても人材紹介業では(そのビジネスモデルの特性上)採用決定を出してくれやすいクライアントや、紹介フィーの高い求人案件に注力してしまいがちです。もちろんこれはビジネスとして当然ではあるのですが、もっとスタートアップや成長ベンチャーを支援したいということはずっと考えていました。
40歳を超えて10数名の部下も持つようになった頃から「人材紹介ビジネスとして稼げる領域に注力すること」と「新しいチャレンジを志す人と企業に携わりたい」という自分の願望との間で葛藤が生まれるようになり、職業人としての後半戦を意識する中で「自分のやりたいことに注力したい」という思いが強くなっていきました。そんな時に私に声をかけてくれたのが、インキュベイトファンド代表パートナーの和田さんでした。
和田さんから声をかけてもらったのが「ご縁の軸」になるのですが、フーチャーベンチャーキャピタルに私が入社した次の年に入って来たのが、和田さんだったんです。お互い退職の時期も近く、彼はその後サイバーエージェントベンチャーズに転職し、私は先ほど話した人材紹介会社に転職するのですが、そこからはエージェントとキャピタリストという関係で細く長いお付き合いをさせて頂いてました。
その後2010年に和田を含む4人のパートナーでインキュベイトファンドが設立され、その後も順調に投資実績・ファンド規模ともに大きく伸ばしておられました。私が和田から最初に声をかけてもらったのは2016年の夏頃です。
スタートアップの資金調達においては、その資金使途は大半が「人材」に関することが多く、成長のドライバーという点においても「人材」が大きなファクターとなります。プロダクトを作るにしても、営業部門や管理部門を強化するにしても、やはり重要なのは人材。
海外のベンチャーキャピタル(以下VC)の事例をみても資金調達だけでなく投資先のHR支援も担っているところが数多くみられます。スタートアップエコシステムとも言われる成長のための環境を如何に提供できるかということが重要視されており、投資先企業の成長を後押しできる体制を海外VCなどは積極的につくっています。
和田は国内VCとしていち早くそうした機能の拡充をインキュベイトファンドに実装させたいという構想をもっていて、私に声をかけてくれたんです。私自身は自分の今後について悶々としていた時期でしたので、これまで培ってきたキャリアと、自分のやりたい事がまさに一致して、「是非やらせてもらいたい!」と返事をしました。こういう機会を頂けたことは、本当にいまでも感謝しています。
Q:キャリアの軸とご縁の軸、まさにここが交差したのがインキュベイトファンドさんだったのですね。
インキュベイトファンドで「IF Talent Network」を企画したきかっけはどんなところから生まれたのですか?
最初はやはりVC先進国のアメリカの事例から学ぶところが多かったです。アメリカのVCは歴史も古くいろいろな分野でチャレンジが行われており、投資ファンドの数は多く、ファンド規模も大きいので、起業家にとってはどのVCから投資を受けるのか選択肢がたくさんある状態です。このような環境の中で、直近10年の間にVC自体がさらに進化してきたようです。
「人材採用」にフォーカスを当てると、VCが運用するタレントプールが、スタートアップへの人材供給のHUBとしてアメリカでは完全に機能しているようです。優秀な学生や、ベンチャーで即戦力として活躍できるスキルや能力を持つ人材が、様々なファンドのタレントプールに登録しており、スタートアップ各社はVCが保有するタレントプールに直接リーチして声を掛ける。そういう仕組みが出来上がっています。
当時その仕組みを知るまでは、アメリカ人は日本人とはマインドや気質が違うのだと思っていました。アメリカは優秀な人ほどベンチャーに行き、日本人は保守的だから大手や有名企業に就職する。でも、本当にそうなのか?
日本人でも「新しいことに挑戦したい」という人は多くいます。アメリカ人だからとか日本人だからとかの理由ではなく、ただそこに社会的な仕組みがあるかないか、この違いだけがあるのではと思うようになりました。
だから私達は、インキュベイトファンドでタレントプールを創ることにチャレンジしたいと思ったんですね。VC・スタートアップ(投資先)・個人の3者をつなぐ、まさにタレントネットワークを構築したいと思うようになりました。しかし、それを日本でどうやってかたちにするか、その術が無かったので2017年春頃に、TalentCloudさんに相談させてもらうところからスタートしました。
Q.:その節はご相談頂きましてありがとうございました(笑)
本場アメリカのVCでは投資先を支援するタレントプールの仕組みが出来上がっているという事ですが、ベンチマークにした所はあったのですか?
そうですね、ANDREESSEN HOROWITS(以下a16z)というVCがありまして、ここは2009年に設立されたカリフォルニアに本拠を置くベンチャーキャピタルです。Facebook、Twitter、Instagram、Airbnbなどといった名だたる企業に投資をしている全米を代表するVCです。
a16zのホームページに掲載されている社員メンバーの人数を数えると現在133名確認できます。内訳をみると、インベスティング(投資担当)が30名、管理部門が36名、残りの67名がバリューアップチームなんですね。バリューアップメンバーの内、エグゼクティブ人材の紹介担当・エンジニア人材の紹介担当が合わせて20名ほどいます。HR担当が1つのファンドに20人以上いるんですよ!すごいですよね! 同社のタレントプールには常時2,000人ほどの人材が登録されているようです。数年前の実績で1300人を投資先に紹介し、そのうち130人が採用に至っているとのこと。
投資先のバリューアップを専門に担うメンバーが社員の半分以上いる。こういう構成員比率のベンチャーキャピタルは日本にはまだありません。基本は投資部門の人員が多く、バックオフィスメンバーが数名という小さい所帯が多いです。バリューアップを担当するミドル部門はあったり無かったりというのが日本の状況です。
a16zは1つのベンチマークになりました。VCにいる専任のHR担当が全米を周り、世界を周って優秀な人材に声をかけて自社のタレントプールに入ってもらう。投資先企業はこのタレントプールにアクセスする。この仕組があることによって優秀な人材がスタートアップのCEOやCTO達と気軽に直接コミュニケーションを取ることができるんですね。
だから私達も、スタートアップで活躍したいといった志向性のある方や、この人なら活躍できそう!という実績や能力をお持ちの方にインキュベイトファンドのタレントプールに入ってもらって、そこで投資先各社を知ってもらう、コミュニケーションを取ってもらうという仕組みを作りたいと思いました。
すべては投資先の成功確度を上げるため、そして新しく何かにチャレンジしたい思っている人に、スタートアップと最短距離で出会える場を提供したいという思いで取り組み始めています。
Q:投資先スタートアップの経営者やHR担当者とは現在どんな関係性を築いていて、今後どんな関係性を築いて行きたいなどはありますか?
当社は企業の最初期の段階、シード・アーリフェーズでの投資実行から関係性がスタートします。もう少し正確に言えばその手前の事業計画を練るというゼロイチのところから関わっていますので、我々自身も主体的に創業期から一緒に汗を流し事業成長にコミットしていくというスタンスを常に持っています。
私が人材エージェントとして活動していた時は、採用の失敗もある意味ビジネスの一つとして割り切っている部分もありましたが、今は投資先の痛みは我々の痛みでもありますし、投資先の成長は我々ファンドにとっての良い成果でもありますので、今はスタンスとしては理想的な人材紹介業務が出来ていると思っています。あとは実績だけですね(笑)
Q.:IF Talent Networkをスタートして実際にどんな状況が変わってきたり生まれたりしていますか?
まだ始まったばかりで何かが生まれたりはしていないですが、ベンチャーキャピタルがタレントプールの運用を始めようとしているというだけで、興味を持って頂ける方が多いので、社会に求められている機能なんだと実感させられることは多いです。
IF Talent Networkをスタートさせる前のステップとしてやっていたことでお話させて頂くと、去年は人材エージェントさんとの連携強化に力を入れていました。日本において優秀な人材の獲得を考えたとき、人材エージェント各社の力をお借りすることは大事なことです。
人材エージェント各社との連携強化の中で生まれた成果の1つは、当社の投資先企業の採用マーケットにおける認知がこの1年半の間でだいぶ進んだことだと思います。転職活動を行っている方から「ここもインキュベイトファンドさんの投資先なんですね!よく聞く会社が多いです」という声を頂けるようになってきました。弊社の投資先はまだまだ企業規模として小さいところも多いのですが、数ある求人情報の中でも人材エージェントが注力してくださることで、マーケット内で埋もれることなく、きちんと露出して行くことが出来てきたと思っています。
結果として私が入社してからここまでの決定の数で言いますと、直接間接の違いはあれど、週1ペースで採用が決まっています。私が関与していないものも含めるともっと決まっていると思いますが、このインパクトは大きいと思っています。
でも、これはあくまでも私達から見た数字です。100社を超える投資先、パートナーファンドの投資先も含めれば200社を超えており、その投資先側から見れば、1社あたりに紹介できている実績数字はまだまだ低い状態ですので、より多くの出会いを生み出していくためにもIF Talent Networkを早期に軌道にのせ、より多くの出会いが生まれるようにしていかなくてはと思っています。
ちなみにIF Talent Networkの名称についてですが、スタートアップへの正社員転職という機会提供だけでなく、多様な働き方、例えば副業やインターン・業務委託、その他起業準備のための仲間創りなど、必ずしも転職だけではない今後の広がり・繋がりも考えて「タレントネットワーク」という名称にしました。
IFタレントネットワークをβ版としてリリースして1ヶ月ほど経ちましたが、すでに採用の最終フェーズという人も出てきています。正式リリース(※2018年11月に正式リリース済み)に向けてさらに加速していきたいと思っています。
Q.β版リリースから1ヶ月で採用の最終フェーズに入っている人が出てきているというのはすごいスピード感ですね。まさにスタートアップならではという気がします。
IFタレントネットワークで将来的にどんな環境や状況を実現したいと思っていますか?
IF Talent Networkは新しいチャレンジを始めようと思う方のプラットフォームでありたいと思っています。そして、一人ひとりが明確な意志を持つタレントの集まりであってほしいと思っています。求人情報を出してそこから何か拾ってもらうというより、自ら積極的に発信し動ける方が集っている場であってほしいと思っています。今後登録者が増えてきたら、タレントネットワークオフ会などもやりたいなと考えています。意志ある人が集まる場は必ず価値があると思っていますので、投資先スタートアップの経営者や人事ヘッドにも参加してもらい、様々な出会いの機会を生み出していければ嬉しいです。
新しい産業を生み出そうとするスタートアップに投資するインキュベイトファンドだからこそ、そういう機会提供ができるのではないかと思っています。