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AIで職種の壁が溶ける 「担当外の仕事」を自分でやる人が増えている

AI導入業務活用
寺師 岳見監修: 寺師 岳見(株式会社タレントクラウド 代表取締役)フォロー最新のAI情報を発信中
職種の壁が溶けるタスク・クロスオーバーの図解。中小企業のオフィスでマーケ・エンジニアリング・営業・経理などの部屋が壁でつながり、中心のAIを介して担当外の仕事が行き来する様子。職種特有の相談の43.5%が担当外の仕事という数字と、取り返しがつく仕事は任せてよい、専門家確認が要る仕事は別という線引きを添えたインフォグラフィック

営業の人が、これまではアナリストに頼んでいた顧客データの分析を自分でやる。マーケ担当が、エンジニアを待たずにサイトの不具合を調べる。経営者が、契約書の下読みも簡単な財務分析も自分で片付ける。

心当たり、ありませんか。この現象に、OpenAIが数字を付けました。

7月27日に公開された調査Work at the Frontierによると、米国のChatGPT利用者の80万件を超えるメッセージを分析した結果、仕事に関する相談の16.8%、職種特有の相談に限れば43.5%が従来は別の職種に紐づいていた仕事でした。半分近くが越境しているということです。

しかもこの傾向は、平均的な利用者に限ると会社が小さいほど強く出ています。中小企業にとっては他人事ではありません。

AIが変えたのは「やり方」ではなく「誰がやるか」

OpenAIはこの現象をタスク・クロスオーバー(職種をまたぐ仕事の移動)と呼んでいます。ポイントは、AIが変えたのが仕事の進め方ではなく、担当者だという指摘です。

これまで、専門外の仕事には壁がありました。契約書のチェックは法務に回す。データ分析はアナリストに頼む。サイトの修正はエンジニアに依頼する。頼めば数日待つし、頼む相手がいなければ外注する。その壁が、AIに聞けば一次案が出てくることで低くなりました。

面白いのは、これが「AIに仕事を奪われる」話とは逆向きだということです。奪われるのではなく、一人が触れる仕事の範囲が広がっている。OpenAI自身も、多くの職種は消えるのではなく再編成されるだろう、という見方を示しています。

越境されているのはマーケとエンジニアリングの仕事

どんな仕事が職種を越えて広がっているのか。調査の数字を見ると、はっきりした偏りがあります。

仕事の種類他職種の人がAIに相談する割合
マーケティング系8.9%(全職種の中で最も広く越境されている)
エンジニアリング系7.4%(トラブルシューティングや技術的な確認)
デザイン系1.7%(他職種のメッセージにはあまり現れない)

マーケティングとエンジニアリング。中小企業がいちばん外注しがちな2分野が、そのまま「みんなが自分でやり始めた仕事」の上位に来ています。実際、顧客対応の担当者が相談する内容の26%はマーケティングの仕事、20%はエンジニアリングの仕事だったと報告されています。

逆にデザインは、他の職種にはあまり流れていきません。デザイナー自身は外の仕事を多く取り込んでいるのに、デザインの仕事は外に出ていかない。AIで代替しにくいのか、あるいは他職種の人が手を出しにくいのか。いずれにせよ、デザイン業務の越境は起きにくいというヒントになる非対称です。

会社が小さいほど、越境は起きる

今回いちばん実務に刺さるのがこの発見です。ワークスペースの規模別に見ると、担当外の仕事の割合は2〜5人の組織で18.9%、100人超の組織で16.3%。小さい組織ほど高くなっています。

理由は考えるまでもありません。大企業なら専門チームに投げられますが、小さい会社では問題にいちばん近い人がそのままやるしかないからです。OpenAIも、専門人材がいない場所ほどAIは万能型の道具として効く、と書いています。

これは中小企業にとって、珍しく有利な話です。人が足りないという弱点が、そのままAI活用の伸びしろになっている。私たちのAI導入支援でも、社長や総務担当が「これも自分でできるのでは」と気づく瞬間から一気に進む会社が多く、この数字は実感とよく合います。以前書いたAI活用レベルの見取り図でいえば、越境が始まった時点でレベルが一段上がっているとも言えます。

越境させてよい仕事と、そうでない仕事の線引き

ただ、手放しで喜ぶ話でもありません。越境には向き不向きがあります

任せてよいのは、間違えても取り返しがつく仕事です。広告文の案出し、社内資料の下書き、データの整形、簡単なグラフ作り。ここは素人がAIと一緒にやって十分成立します。バイブコーディングで社内ツールを作るのも同じ位置づけです。

危ないのは、間違いに自分で気づけない領域です。契約書の最終判断、税務や労務の解釈、医療や安全に関わる内容。AIの答えがもっともらしいほど、専門外の人には検証ができません。ハルシネーション対策の記事で書いた「任せる仕事の選び方」が、そのまま越境の線引きになります。

もうひとつ、越境が進むほどシャドーAIの面も強まります。担当外の仕事を個人アカウントのAIでこなす、という形になりやすいからです。会社としては、越境を歓迎しつつ、どのツールで何を扱ってよいかだけは決めておきたいところです。

数字の前提も見ておく

念のため補足すると、この調査は米国のChatGPT利用者のメッセージを分析したものです。日本の職場にそのまま当てはまる保証はありませんし、実際の業務時間ではなくAIへの相談内容から推定した割合である点にも注意が必要です。

とはいえ、80万件超という規模で「誰がどの仕事をAIに聞いているか」を見た調査はほとんどありません。傾向を読む材料としては十分に有用だと思います。

まとめ: 求人票より先に、仕事のほうが変わっている

OpenAIがこの調査で示唆しているのは、職務内容の書き換えより先に、実際の仕事の中身が動いているということです。求人票や職種名が変わるのは、いつも後からです。

自社を見るなら、質問はシンプルです。うちの社員は、AIを使って何の仕事を「はみ出して」やっているか。それを一覧にすると、外注を減らせる場所と、放っておくと危ない場所が同時に見えてきます。

まずは身近な一人に「AIに何を聞いているか」を尋ねてみてください。その答えが職種の外にはみ出していたら、あなたの会社でも、仕事の地図はもう書き換わり始めています。

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