生成AIの活用方法がわからない理由 使いどころは探すより集める

「AIを入れたほうがいいのは分かっているのですが、うちの何に使えばいいのか」
AI導入のご相談で、いちばん多く聞く言葉です。ツールの比較でも、費用の話でもない。使いどころが見つからないという、その一点で止まっている。
ただ、この詰まり方の中身が、この1年で変わりました。もう「AIを使っていないから分からない」ではありません。使ってはいるけれど、次に何へ使えばいいのかが分からない、という段階に移っています。
使っている会社は86.4% 止まっているのは入口ではない
2026年7月24日に公表された令和8年版 情報通信白書(概要)に、日本・米国・ドイツ・中国を比べた調査があります。数字が大きく動いていました。
自社の何らかの業務で生成AIを利用している割合は、日本で86.4%。 前年度調査の55.2%から一気に上がり、米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%との差はかなり縮まりました。活用方針を定めている企業も68.9%で、前年度の49.7%から大きく上昇しています。
「日本は遅れている」という話は、少なくとも利用率については過去のものになりました。
問題は次です。生成AI活用による業務変革について尋ねた設問で、日本は「組織的な取り組みはない」が27.0%。同じ質問で米国は1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%です。さらに「わからない」が日本で7.4%(他3か国は0.4〜0.7%)。
使ってはいるが、組織としては何も動いていない。そういう会社が3割近くあり、この比率が日本だけ突出しています。
利用率の高さは、業務が変わった証拠ではない
もう1問、この状態をよく説明する設問がありました。業務変革に向けた環境整備の状況です。日本の低さが目立ちます。
| 環境整備の項目 | 日本 | 米国 | ドイツ | 中国 |
|---|---|---|---|---|
| 業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある | 39.9% | 62.7% | 60.4% | 71.7% |
| 生成AIに社内データを学習させたり、参照可能なデータベースを構築したりしている | 24.5% | 57.2% | 54.4% | 73.0% |
| 特に実施している施策はない・把握していない | 19.9% | 0.7% | 0.7% | 0.3% |
最後の行が象徴的です。なおこの設問は、前問で「組織的な取り組みはない」「わからない」と答えた企業を除いた回答になっています。つまり何らかの組織的な取り組みをしている企業に絞っても、日本では19.9%が具体的な環境整備について「特に実施している施策はない・把握していない」と答えている。他の3か国はいずれも1%未満です。
ここから言えるのは、86.4%という高い利用率が、そのまま組織的な業務変革を意味しているわけではないということです。使うところまでは一気に広がった一方で、会社として仕事のやり方を変える段階には大きなばらつきがあります。
私たちが現場で見ている範囲でも、多くの会社は議事録、メールの下書き、資料の叩き台という定番の3つで止まっています。そして「もう試した」「思ったほど時間は減らなかった」で終わる。
これはシャドーAIで書いた話とも地続きです。会社が把握しないまま個人利用だけが進むと、リスクが見えないだけでなく、成果も会社に貯まりません。
会議室で考えるから、候補が出てこない
では組織として何に使うか。ここで多くの会社が、会議室に集まって「AIで何ができるか」を考え始めます。これがうまくいかない。
出てくるのは、だいたい記事やセミナーで見た事例の再演です。自社の業務から出発していないので、当てはめようとしても噛み合わない。そして「うちには合わないね」で解散します。
発想を変えます。使いどころを探すのではなく、社内から集める。
参考になる実例があります。CloudflareがCIOによる社内展開記で公開していた話で、全社員に対して「やりたくない仕事を送ると結果が返ってくる魔法のAIメールアドレス」を用意した、というものです。裏側では少人数のチームがAIツールを使って処理していました。
結果が面白い。人は、自分のアプリのアイデアは自動処理っぽいものに送りたがらないのに、やりたくない仕事はどんどん送ってくる。数百、数千のやり取りを通じて、社内で本当に面倒がられている作業の実態が見えてきた、という話でした。
同じ記事には失敗も書かれています。最初はエンジニア以外にも同じ道具を配ったところ、必要以上のコードができあがり、解決すべき問題を探してさまようアプリが大量に生まれた、と。道具を配るのが先だと、こうなります。
順番はこうです。仕事を集めてから、道具を決める。 この記事でいちばん言いたいのはここです。
中小企業版の集め方 チャンネル1つ、2週間
10人でも30人でも回るやり方に落とします。用意するのは、社内チャットのチャンネル1つだけです。
投げてもらう内容を3つに絞ります。
- 毎回やっているが、正直やりたくない作業
- 時間がないという理由で、やらずに諦めていること
- 前任者から引き継いだが、なぜやっているのか分からない作業
期間は2週間。最初は人が手で処理していい、というのが大事なところです。集まったものにその場でAIを当てる必要はありません。まず何が出てくるかを見る。ここで自動化を焦ると、投稿が止まります。
2つ目からは、定番の3つとは違う候補が出てきます。たとえばこういうものです。
- 見積もりや提案書の作成が重くて、引き合いを断っていた案件
- 更新が追いつかず、何年も止まっている自社サイトの事例紹介やお知らせ
- 手が回らないままの、既存顧客へのフォロー連絡
- 出す前に力尽きる、展示会やセミナーの後追い
- 情報が社内に散っていて答えるのに時間がかかる、問い合わせへの一次回答
3つ目を入れているのにも理由があります。AI化の前に、そもそもやめられる仕事が混ざっていることが本当に多いからです。AIで速くする前に、消せるなら消したほうが早い。
私たちが導入支援に入るときも、最初にやるのはツールの選定ではなく、この手の聞き取りです。経営者が「うちはAIで何ができますかね」と考え込んでいる横で、現場の方に同じ3つを聞くと、5分で3つも4つも出てきます。見えていないのではなく、見ている場所が違うだけ。この非対称は、規模を問わずどの会社でも起きます。
集まった仕事を4つに仕分ける
2週間で集まったものを、2軸で並べます。発生する頻度と、人の判断がどれだけ要るかです。
| 判断がほとんど要らない | 判断が要る | |
|---|---|---|
| 頻度が高い | 最優先。定型処理として組む | 下書きをAI、確認を人。効果が大きい |
| 頻度が低い | 後回しでよい。手作業のままで足りる | AIに壁打ち相手をさせる。仕組み化はしない |
左上から手をつけます。頻度が高くて判断が要らない仕事は、効果が読みやすく、失敗しても被害が小さい。右上は効果が大きいぶん設計が要るので、左上で慣れてからのほうが安全です。
この仕分けをすると、「AIに向いていない仕事」も同時に見えてきます。頻度が低くて判断が重い仕事に無理やりAIを入れても、労力に見合いません。
最初の1個を選ぶ基準は3つ
仕分けたあと、どれから始めるか。3つの条件を全部満たすものを選んでください。
- 週に1回以上は発生する。月1回だと、慣れる前に忘れます
- 間違っても被害が小さい。社外に出る前に人の目が入る仕事から
- 結果の正誤が、その場で分かる。合っているか判断できないものは、最初には向きません
3つ目が特に効きます。AIの出力が正しいかどうかを自分で判定できない業務から始めると、ハルシネーションに気づけないまま運用が回り、あとで大きく崩れます。
逆に言えば、この3条件に合う仕事なら、多少雑に始めても取り返しがつきます。まず1個。全社展開の計画は、その1個が回ってから考えれば十分です。
まとめ 使い道は、現場がもう知っている
白書の数字をもう一度並べます。使っている会社は86.4%。組織的な取り組みがない会社は27.0%。 この差が、いまの日本の課題そのものです。
個人が勝手に使っている状態から、会社の仕事が変わる状態へ。その間を埋めるのは、立派な方針書でも他社事例でもありません。自社の現場から出てきた、具体的な作業のリストです。
今日できることは、チャンネルを1つ作ることだけです。名前は「やりたくない仕事」でいい。2週間後に何が集まっているか、それが自社のAI活用の出発点になります。
自社がいまどの段階にいるのかを先に把握したい方は、AI活用度診断とAI活用レベルの見取り図もあわせてどうぞ。集めた仕事をどこに位置づけるかの物差しになります。